僕の大事な
鉄男くんとのデュエルに負けて、たくさんの人が向ける見下しているような視線から逃げるように、校舎裏に向かった。
今日はあの人に会える気がした。廊下ですれ違うと、いつだって不機嫌そうな顔をしているけど、校舎裏の桜の木の下では穏やかな顔をしている、あの人に。
「僕、今日も負けちゃいました…父ちゃんの形見のデッキなのに、勝てない」
何も言わずに、僕の泣き言を聞いてくれる。初めてここでバッタリ会った日は、お金やカードを取られるんじゃないかとびくびくしていたけど、凌牙先輩は会う度にデッキ構築をよく手伝ってくれるし、カードをくれることだってあった。
「お前はビビりすぎなんだよ」
「これでも、先輩に色々教えてもらってから、ちょっとは勇気、出せるようになったんです」
凌牙先輩は顔を逸らしてそうか、とだけ言った。その程度で勇気を出せるようになったなんて、と呆れられたのかもしれない。口答えをするならもうアドバイスはしない、ということなのかもしれない。嫌な考えばかりが浮かんでは消えていく。どうしよう。
「まあ、がんばってるんじゃねえの」
ポン、と頭に置かれた手。何が起こったのか理解できずに、反射的に頭に乗せられた手の上に手を置いてしまった。凌牙先輩の冷たい手に触れて、ようやく理解する。
スキンシップ…!男友達からのスキンシップ!
暴力を振るわれたことしかなかった僕だから、そりゃあもう嬉しくて。でも何だか、恥ずかしくもあって。慌てて先輩から距離を取ってしまった。
「あ、あの、ご、ごめんなさい!えと…その、嬉しくて!」
「嬉しい?」
あーもう嬉しいとか言いつつ離れるなんて矛盾してる。凌牙先輩もわけわかんねえって顔でこっち見てるし。初めて男友達からスキンシップを受けたから…ってこれじゃ何か変態みたいだし、うーん、何て言えば凌牙先輩に変な奴だと思われずに済むんだろう。
「がんばってるって、言ってくれて」
「事実だからな」
がんばっていることを誰かに認められるのって、こんなにも嬉しいことだったのか。
もっと、もっとがんばろう。もっと、勇気を出して。どんなことにだって、手当たり次第挑戦してみればいい。
…挑戦?
「……かっと…ビング…?」
「どうした、おい」
「かっとビング、かっとビングだー!」
ずっと忘れていた言葉。父ちゃんからもらった、大切な大切な言葉。どうして今まで忘れていたんだろう。勇気を持って、諦めずに、どんな困難にも立ち向かう。
「かっとビングってなんだよ」
「先輩!今から僕とデュエルしてください!そうしたらきっと、かっとビングの意味もわかりますから!」
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