[携帯モード] [URL送信]
温度差
Wはずっと部屋にこもったままだった。カイトと遊馬とのデュエルが終わってから、彼は何も言わず、家に帰るとすぐに自室に閉じこもってしまったのだ。部屋の中で暴れているらしい物音がしょっちゅう聞こえてくる。Xは眉一つ動かすこともせずに紅茶の入ったカップに口をつけた。

「放っておきなさい」

Wの部屋に向かおうとすれば、呆れたような声をかけられた。冷えきっている。この家の中の、何もかもが。温かいものなんて、いれたての紅茶くらいしか見当たらない。それだって時が過ぎれば冷めてしまう。
永遠に温かいものだと思い込んでいた家族だって、時が経てばこんなに冷たくなるのだから。永遠に温かいものなんて、この世には存在しないのかもしれない。

「でも…」
「V、行っても傷つくだけだ。わかるな」

バリン、と何かが割れるような音がしてようやくXは眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をした。そしてまだ紅茶の残っているカップをテーブルに置くと、立ち上がった。

「私が行く。Vはもう寝なさい」

XはそのままノックもせずにWの部屋へと入ってしまった。
自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がっているVは、隣の部屋から聞こえてくる口喧嘩に耳を塞いだ。自分の思い通りにいかず、負けてしまって悔しいWの気持ちも、家の中で暴れられてうっとうしいXの気持ちも、Vにはよくわかる。よくわかるのにこの状況を少しも解決できない自分が情けなかった。

「うるせえ!放っとけって言ってんだろうが!!」

怒号と共に、なぜかVの部屋に勢いよく入ってきたのはWだった。Xから逃げてきたのだろう、実際WはXと喧嘩になる度一人でフラフラと外に出ていくことがよくあった。今日のデュエルで相当体力を使ったのだから、外に出るわけにもいかず、Vの部屋を逃げ場所として選んだのだろう。

「V、大丈夫か?」

ドアの向こうからXの心配そうな声が聞こえると、Wがドアを思いきり蹴った。

「大丈…夫です」

実際はそう搾り出すのがやっとのこと、そんな状況だった。デュエルアンカーで拘束された首、そしてベッドに引き倒された体。こういうときに彼を睨みつけるのは逆効果だと知っている。ただ、されるがまま、無抵抗でいるのが一番いい。
Xがしばらくドアの前でそわそわとしていたる気配があったが、トロンに呼び出されたのかしばらくすると早足で去っていった。

「お前はこんなことをされても大丈夫、なんだな?」
「に、さま、あ…」

ぐいとデュエルアンカーが引っ張られると、喉に軽い衝撃が走る。耐えられず咳込むと、Wは歪んだ笑みを浮かべる。
そんな笑顔が見たいわけじゃないのに。

「僕がやられたとき、呼んでくれて」
「あ?」
「僕が、カイトに…っ!」

急に首の拘束を外して、Wはベッドを降りた。わざとらしいため息をつき、舌打ちをして、Vを見ようともせずに部屋から出ていこうとしていた。その後を追いかけようとすれば、押しのけられて床に尻餅をつく。

「お前みたいな奴が弟だと思うと、虫酸が走るな」
「僕だってW兄様みたいなのが兄だなんて、そんなの…」

Wは立ち止まって振り返ると、Vに向かって歩み寄ってきた。その顔には表情というものが見て取れず、Vは叩かれるのかもしれないと目をぎゅっとつむり構えた。しかしいつまで経っても衝撃は来ず、頭に向かって伸びてきた手は、そのままVの髪を優しく撫で付けた。

「それでいい」

小さい声。気を抜いていたら聞き逃していたかもしれない、優しい声。幼い頃、泣き虫な自分を慰めてくれた声は、確かにそう言った。

「俺を慕うな」

慕っているのではなく、ただたまらなく愛しいのだと、そう伝えたら、彼はどんな反応をするだろう。結局無視されるような気がして、Vは自嘲気味な笑みを微かに浮かべたまま去っていくWの背中を見つめていた。


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!