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落ちる
床に落とされたティーカップが割れ、破片が辺りに飛び散ってからも、Vはしばらく呆然とその様をただ見ていることしかできなかった。
「いらねえって言ってんだろ」
WはそんなVを見ようともせずに、デッキの構築を続けていた。飛び散った紅茶の熱さも感じないほどに、Wの言葉と態度に衝撃を受けてしまったVは動けない。頭ではカップの破片を片付け、床を拭かなければいけないことはとうにわかっている。それなのに、どういうことか体は動いてくれないのだ。
「くっ…ははっ!最高だぜV」
Wはデッキを乱暴に机の上に投げ出すと、硬直しているVの正面に立ち、その頬を撫でた。
「お前のその顔、たまんねえ」
Xに言わせると卑劣な趣味、らしい。ファンサービスという名の、征服欲を満たすための、ただの虚勢。自分の価値を自分で見つけることができないから、他人をおとしめることでそれを見出だそうとしているだけの、虚しい行為。
「前々からこうしてやりたかったんだよ。お前の俺への希望をぶち壊してやろうってな。ただ、もっともっともっともっとお前に希望を与えてからだってずっと我慢してたんだぜ?良い兄を演じるのは中々骨が折れたがまあ、その甲斐はあったな」
Vは彼の行為が征服欲を満たすためのものだけではないことを知っている。彼はただ、他人を試しているのだ。こんな自分でさえ、受け入れてくれるような人がいるのではないかと、心の奥で期待している。そんなそぶりは微塵も見せないし、本人が自覚しているかどうかも怪しいところではあったが。
「なに、いってるんですか…」
「何って、お前は俺の言葉を聞いていなかったのか?ああ、理解できないだけかな」
「僕はW兄様のことが、好きなんです」
今まで浮かべていた薄笑いがWの顔から消え、同時にVの顔を撫でていた手も止まった。
「だから、W兄様に何をされても、世界中の人がW兄様の敵になったとしても、僕はW兄様のために、W兄様と共に、戦います」
「好きなんです、すごく、とても、たくさん…」
Vの体を無言で抱きしめたWは、どうしようもない虚しさと、どうしようもない幸せに満たされていた。Vの啜り泣く声を聞いて愛しさで胸がいっぱいになり、何年か振りにそうしたいと強く思ったうえで彼の頭を撫でてしまうくらいには。
Vも今までの偽善的なものとは違う手つきに気付き、涙を流しながらそれにこたえた。
「何でお前が泣いてるんだよ」
十何年振りにWが流した涙は、誰にも気づかれないままVの肩へと落ちていった。


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