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手袋ウサギ
C
三浦君は上着のポケットに手を入れて、何かを思い出したようだ。

「これ貰ってくんね?」

と言って、ポケットから小さい袋を出す。

「何?」

「昨日マミに渡すつもりだったんだけど、要らなくなったから」

あぁ、クリスマスプレゼントか、と思った。マミさんは昨日三浦君をふった先輩だ。昨日から今日にかけての三浦君の話の中に何度も出てきた名前だから、すっかり覚えてしまった。

「え、でも」

「要らねぇと思うけどさ、なんか、西野に持ってて欲しいとか思って…」

「そっか、ありがと。」

と言って俺は、中身の分からない小さな袋を受け取った。

「じゃあな。」

三浦君が言った。

「うん、三学期まで元気でね。あと、良いお年を。」

「あぁ、西野もな。」

「うん。気をつけて帰れよ。そっちこそ途中で寝て凍死すんなよな。」

「…どーかな。」

「ええっ、じゃあ送ってこうか。」

「はははっ、きりねぇし。」

「お互いいつになったら帰れんだっていう…」

「…あ、あのさ」

急に三浦君が真面目な顔になった。

「ん?」

「西野がもし女だったとして、俺の彼女だったらさ…」

何を言うのかと思えば、何じゃそりゃ。

「ありえねーだろ。」

「え…」

「俺が女だったとしてもブスだから、三浦みたいのとは付き合えないって。全然釣り合わねぇし。」

「んな事ねーしかんけーねーし、べつにブスでもねぇよ。まぁいいや、女だったとして可愛かったとして俺と付き合ってたらさ…」

「うん。」

「俺の事嫌いにならない?」

「はぁ?」

知るかよ、と思った。

「ちゃんと真面目に想像してみてくれよ。」

「…あー……」

俺は言われた通り出来るだけ真面目に想像してみたけど、やっぱりそんなの分かるわけない。

「うん、ならないしふらないし二股もかけない。」

こう言って欲しいんだろうなって事はなんとなく分かったから言ってみた。

「マジで?絶対?」

「マジで。絶対。賭けてもいいよ。」

こんな事言ったって実証のしようが無いんだから、我ながらいい加減だなと思った。でも三浦君は満足そうな、というか、安心した様に微笑んだから、俺もほっとした。

「西野が女だったら良かったのに…」

三浦君が呟く様に言った。何だか悪い気はしなかった。俺は「男でごめん」とか、テキトーに返した。

三浦君が再び「じゃあな」と言って帰って行くのを見送った後、いつも持ち歩いてる鍵で玄関のドアを開けた。やっぱりこんな早朝だ、まだ誰も起きてなかった。俺は家族を起こさないようになるべく静かにシャワーを浴びると、スエットを着て自分の部屋のベッドに倒れた。自分の匂いがする布団は落ち着く。

次に目が覚めたのは夕方四時過ぎだった。すげーよく寝た。机の上に目をやると、三浦君が彼女さんに渡す筈だったクリスマスプレゼントが目に入った。一回寝て起きたら、昨日今日の事はもしかしたら夢だったのかもしれないと思ったけど、確かに現実だったという事を証明する物だ。

そーいや、まだ開けてなかったな。

ベッドから降りて机まで小さな袋を取りに行く。開けてみると、ブレスレットだった。センスの良いシンプルなデザインで男でも使えそうだったけど、使う気にはなれず机の引き出しにしまった。俺には似合わないし、どっかに落としてなくしてしまったらと思うと、勿体無い気がしたのだ。記念として大事に持っておこう。何の記念だ?三浦君と仲良くなれた記念かな。

やっぱり俺はラッキーだったのかもしれない。三浦君の色んな顔を見れたし。泣き顔とかかなりレアだったんじゃないか?それに、俺や山下達じゃ絶対経験した事の無いような彼女とのあれこれ、貴重な話も聞けたし。何より、結構楽しかった。正直最初はめんどくせぇのに捕まっちゃったなって思ったけど。

俺が昨日あの時間あの場所を歩いてなかったら、三浦君と会う事は無かったんだ。いつものメンバーでそれなりに楽しいクリスマスパーティーをしてたと思うけど、山下達にはいつだって会える。

三学期になって学校で三浦君に会ったら、ただのクラスメートだった前までとは違ってるかな。

何だか冬休みが早く終って欲しいような気になった。


終わり

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