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手袋ウサギ
B
それからも、ひたすらに三浦君の彼女さん、あ、いや、元カノさん話は延々と続いた。

…のだが、今まではずっと、まだ平気そうに話してたのに、突然三浦君の目から涙が溢れたのだ。俺は驚きのあまり目を疑った。話してるうちに何か思い出してしまったのだろうか。俺はうろたえる事しか出来なかった。そのうち、三浦君は声が出るほど泣き出してしまった。

三浦君の涙を見てるうちに、何故かこっちまで悲しくなってくる。俺は自分でもオカシイと思うのだが、泣いてる人を見るとすぐにそれがうつってしまうのだ。テレビでも何でも、全く状況を理解してなくても、ただ泣いてる人を見ただけで泣きたくなってしまう。

俺は彼女も居た事が無いし、ふられた事も無いから、三浦君の気持ちは正直分からないし想像するぐらいの事しか出来ないけど…

何だか悲しくて仕方ない。あぁどうしよう…気が付けば、目の前の三浦君より俺の方が大泣きしていた。涙がボロボロと止まらない。嗚咽が漏れる。鼻水が垂れる。自分、超ダセェ……

俺が「ごべん、ディッジュ貰うね。」と言って箱ティッシュに手を伸ばすと、三浦君は泣きながらも取りやすい位置に近付けてくれた。

クリスマスの夜に男二人でマジ泣きって、相当イミが解らない。何だよ、これ。

泣き顔の三浦君と目が合った。恐らく、俺の方がよっぽどヒドイ。三浦君は泣いてもかっこよかった。ズルイぞ、と思った。三浦君がフッと吹き出して、俺もつられて笑った。その時俺の腹が鳴って、二人でもっと笑った。気付けば真夜中の二時過ぎだった。お菓子を食ったのは、もう何時間も前の事だ。俺が買って来たお菓子はとっくに俺一人で食いきってしまって、カスしか残っていない。

「腹減ったからちょっとコンビニ行って来て良い?」

「外寒いぞ?カップ麺ならあるけど。」

「マジ?貰って良いの?」

俺はシーフードのやつを貰って、「俺もなんか腹減ったな。」と言った三浦君はカップ焼きそばを作り出した。ソースの良い匂いがする。やっぱさっきどっちか聞かれた時、そっちにしときゃ良かったかなと少しだけ思った。

「やっぱこっちが良かったか?」

三浦君が言った。俺、顔に出てたかな…

「いや、べつに…」

と俺が言うと、三浦君がフッと笑って「半分食ったら交換しようぜ。」と言った。何故かそれが滅茶苦茶かっこよくて、俺は少しドキッとしてしまった。

考えてみれば、クリスマスを三浦君と過ごしたい女子は沢山いるはずだ。だから俺はラッキーなのかもしれない。でもすぐ後に、俺女子じゃねーから意味ねぇよな、と思った。

それにしても何で俺なんだろ。偶々通りかかったのが俺だったとはいえ、彼女にふられたからって、こんな日に一緒に居るのが俺なんかじゃあまりにも妥協しすぎじゃないか?これで良いのかよ、三浦君。

途中でカップ麺を交換して、俺の方が先に食い終わった。それでぼーっとしていると、俺の上着のポケットから手袋がはみ出てるのが目に入った。無性にウサギを作りたくなる。とはいえ、そんな事やってたの相当前だから覚えてるかなと思いつつ、うろ覚えで片っぽの手袋をテキトーに折り込んでみた。こんなんだっけ?って感じで頭が出来て、もう片っぽの体の部分と繋げてみる。

お、出来た。

手にはめて動かしてみる。

「元気、出たかな?」

今度は喋らせてみた。自分でもうぜーと思った。何だかこの時間帯のせいか、妙なテンションなのだ。俺はこんな時間まで起きてる事は滅多に無い。

「うわ、なつかし。手袋ウサギだ。」

三浦君が言った。俺はウサギにもっと喋らせてみる。

「食欲も湧いてきたみたいだね。良かったね。」

「うはは…かわいい」

「可愛いかぁ?」

そこはお前がそんなんやっても可愛くねーよとつっこむとこだろ。

「可愛いよ。抱きしめたくなった。」

「それもうだいぶ頭イっちゃってるって。」

もっと時間が経って三時四時ぐらいになると、そこからはもう魔の時間だった。何を言ってもすげー可笑しくて、レベルの低い下ネタとか、昼間ならぜんっぜん面白くないくだらない話で、二人で涙が出るほど爆笑した。近所迷惑とか考えられなかった。

外からゴゴゴゴという音が聞こえてきた。除雪車だ。時計を見ると五時で、でもまだ外は暗かった。冬だなぁと思った。俺は眠さが限界だった。今寝たら最高に気持ち良いだろうなと思ったけど、ここで寝る気にはなれなかった。自分の家の自分のベッドで、落ち着いて眠りたい。

「俺そろそろ帰るわ。」

「何で?今日何か用事あんのか?」

「いや、何もないけど、自分ん家で寝たいから。」

「…そっか。じゃあ送ってくよ。」

「いいよ、べつに女子じゃないんだし。」

「男だって襲われる時は襲われるぞ。変な奴多いんだから。それにその辺で寝て凍死されても困るからな。」

「ははっ、そうだね。じゃあ頼むよ。」

膝立ちになって帰り仕度をしていると、三浦君が俺の踵を見て「靴下穴開いてるよ。」と言った。

すっかり忘れていた。

 外に出て道に出た途端滑ってコケた。除雪車が雪を削っていった後は凄く滑るのだ。「ダサっ。何やってんだよ。」と言った三浦君も、すぐ後にコケた。

まだ除雪されていない歩道は結構雪が積もっている。今は止んでるけど、一晩でかなり降ったみたいだ。ズボズボ埋まりながら俺が先を歩く。すでに靴の中には雪が入りまくってべちゃべちゃだった。ジーンズの裾も雪まみれになっている。

突然三浦君に押されて、俺は道の脇にある雪の山に顔から突っ込んだ。

「っわ、つめてぇ」

三浦君は更に面白がって雪をかけてくる。冷たかったけど、三浦君がすげぇ楽しそうに笑うからまぁいいやと思った。三浦君が笑うと、何だか嬉しくなる。三浦君が笑いながら雪に足を取られてコケると、今度は俺が三浦君に雪をかけて逃げた。でも俺の足が遅いせいですぐ捕まって、このまま二人で雪の中にダイブした。

こんな小学生の学校帰りみたいな事をしつつ、漸く俺の家にたどり着いた。こりゃシャワー浴びないと寝れねぇな、と思った。

「俺ん家これ。」

「おぉ、そっか。」

「送ってくれてありがと。」

「おう……あ、そうだ。」


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