手袋ウサギ
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商店街も住宅街も、どこもかしこもイルミネーションで輝いている。俺は今、スーパーで飲み物とお菓子をテキトーに買って来たところで、これから友人の家へ向かう。今日は12月24日、クリスマスイブだ。それで、友人の家でクリスマスパーティーをする事になっている。メンバーは俺入れて四人で、皆男だ。何しろ俺達はクラスでのイケてないグループであって、四人とも中学時代から殆ど女子と喋った事が無い。世間一般ではクリスマスは恋人と過ごすとかどうとか。勿論憧れではあるが、そんなのは俺達にとってファンタジーやSFと同じようなものなのだ。クリスマスなんてもん自体気にしなければ良いのかもしれないが、世の中がこんなに盛り上がってる中何もしないのも、それはそれで寂しい。だから俺達は俺達なりに現実的に友達とクリスマスを楽しもう、という事なのだ。
時間を確かめる為にケータイを上着のポケットから取り出すと、メールが来ていた。鳴ってた事に気が付かなかったようだ。開くと友人からで、もうお前以外全員揃ってるから早く来い、との事だった。今の時間は19時ちょっと前。結構腹が減っている。あいつらも同じだろう。ケーキも買って、ピザなんかも頼んだみたいだ。先に食ってれば良いのに、どうやら律儀に俺を待ってくれているらしい。俺はあいつらのこーゆーとこ大好きだ。兎に角良い奴らなんだ。だから俺には彼女なんて出来なくても、あいつらみたいな友達さえ居ればそれで良いと思う。今日だって、どんなカップル達より俺達が世界で一番楽しいクリスマスイブを過ごしてやるんだ、とか変な意気込みをキメつつ俺は急いだ。
その時、暗闇から人影が現れた。いや、向かって来る人に俺が気付いてなかっただけなんだけど。何しろさっきからヒドイ雪なのだ。ホワイトクリスマスはいいけど、これは降りすぎだと思う。黙ってつっ立ってたらすぐに雪だるまになってしまいそうだ。それにしてもぼけっと歩く奴だな。全然避けようとしないからぶつかりそうになって、俺はギリギリでさっと避けた。
つーか暗くてよく分からなかったけど、もしかして今の…と思いながら通り過ぎようとした時、上着のフードを掴まれて首が絞まった。突然の事に、何事っ!?と思った。
「西野だろ?」
あぁやっぱり。同じクラスの三浦君だ。特に仲が良い訳ではない。中学同じだったけど同じクラスだった事は無くて、高二になって初めてクラスメートになった。話すようになったのも最近で、それに向こうから話しかけてきた時ぐらいしか喋らない。だからさっきだって、もしかして三浦君かなと思いながらも、もうすれ違うとこだし今更気付いたってべつに挨拶なんてしなくても良いだろうと思ったのだ。
「あぁ、三浦君。」
俺は今気付いたみたいな演技をした。
「君は要らない。壁置くような呼び方しやがって。それに気付いてただろ今。」
「あ…いや、ごめん。」
すこぶる機嫌が悪そうな声だった。というか、全く元気が無さそうに見える。いつも明るくて眩しすぎるぐらいなのに、今は何というか、少し離れた所にある街灯からぼんやり照らされた表情は、この世の終わりを思わせるものだった。
「どうしたの?」
俺は気になった事をすぐ口に出して聞いてみた。どうやらこれが良くなかったみたいだ。
「聞いてくれるか?」
その話は長くなるんだろうか、と少し思った。
「うん。」
「俺、さっき彼女にふられてきたんだ。」
えっ、と思ったが声には出さなかった。今日ってクリスマスイブだよな。こんな日にふるとかどんだけ残酷なんだよ。つか、三浦君みたいな男前でもふられる事なんてあるんだ。ふった人の顔が見てみたい。いや、見たことあった気がするな。たしか一個上の先輩で凄く綺麗な人だったと思うけど、名前は知らない。
それにしても、ふられたという話には凄く興味をそそられる。正直ざまあみろと思った。俺はニヤけそうになるのを必死にこらえていた。べつに三浦君の事は嫌いじゃない。ただ凄く羨ましいとは思っていた。中学の時も凄くモテてたし、かっこよくて目立ってたから、違うクラスだったけど三浦君の存在はよく覚えていた。だから、イブにふられるぐらいついてない事があっても、べつにそれぐらい良いだろとも思う。生まれつき恵まれすぎてんだからさ。俺が三浦君みたいな男前に生まれてたら、きっと人生全く違うものになってただろうし、今だって良い
友達が居てそれなりに幸せだとは思ってるけど、やっぱり女子にはモテてみたいものなのだ。ひがんでも虚しくなるだけだから考えないようにしていたが。
つーか、こんなとこで道草食ってる場合じゃなかった。
「そーなんだ。それはそれは…じゃあ俺急いでるから。」
と言って去ろうとしたら、再び首が絞まった。またフードを掴まれたのだ。走り出すところだったせいでさっきよりキツく絞まって、ぐぇっという変な声が出た。
「西野まで俺を見捨てるの?」
「え…」
「俺を置いてくの…こんな寒空の下、心まで冷えきって弱ってる俺を」
「でも、人待たしてるし…」
「…もしかして、彼女じゃないよな?」
「まさかっ、そんな訳ないじゃん。山下と原と細田だよ。」
俺達は大体いつでもこの四人だ。
「あぁいつもの…仲良くて良いね。パーティー?」
三浦君は俺が持ってる荷物をチラリと見て言った。
「うん。」
「良いなぁ。」
本当にそう思ってんだろうか。こんな日に男だけで過ごして何が楽しいんだ、とか思ってんだろ。そっちだってふられたくせに。
俺は勝手に被害妄想をして毒づいた。
「一緒に行く?」
「ううん、行かない。」
そう言うだろうなとは思ったけど、一応気を遣って言ってみた。
「そう、じゃあもう離して。」
さっきから俺の上着のフードは掴まれたままだ。
「やだ。」
「な、何故?」
「俺このままほっとかれたら雪だるまになって死ぬから。西野のせいで。」
「いや、ちょっと待ってよ。あ、じゃあ友達とか誘ってみれば?」
「皆彼女と居るよ。」
「誰かは居るでしょ。女子は?三浦君、女子とも仲良いじゃん。きっと誘われたら喜ぶと思うよ。そうしなよ。じゃあね…っ…あ、あれ?かってぇ…」
俺は俺のフードを掴んでいる三浦君の手を何とかしようと手を伸ばし、ムリな体勢になりながらも三浦君の指を開かせようとするが、固くて全然開かない。終いには背中をつった。
「イてててて…」
それでも三浦君は手を離してくれない。いったい俺はどうすれば良いんだ。
「西野って意外とつめてぇんだな。それと君は要らないっつってんだろ。何回言わせんだよ。」
「ごめん、でもっ俺なんかと居るよりはずっと良いと思うし」
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