ロッテの監督 A ―――… ど、どうしよう、本当にあげちゃったよ。声も手も震えてる。すげぇ心臓痛い。 そしてあっつい…不審に思われてないだろうか。 実は、休んでるヤツが居るなんて嘘だ。最初から滝本の分は用意していた。滝本に渡す分の一番綺麗に出来たやつは、一番上にしてすぐに渡せる様になっていたんだ。 滝本はモテるから今日ずっと女子に囲まれっぱなしで、ずっと渡せなくて、渡すタイミング逃し続けて…まさか向こうからチャンスをくれるなんて、思ってもみなかった。 つーか、馬鹿か俺は。ついでとはいえ、何女子みたいな事やってんだよ気色わりぃ。 サクッ 「お、美味いな。」 うわ、食った。マジで食った… 「…マジで?」 「マジで美味いよ。」 滝本は満面の笑みで言った。 ズキュンッ! なんて事だ。女子だけにとどまらず、男のハートまでも射抜いてしまうなんて恐ろしい男…!!って、今はそんな事より…う、嘘だ!滝本は優しいからそんな事言うんだ!そりゃ昨日何回も味見はしたけど… 「残りは勿体ねーから持って帰って食うわ。」 滝本は俺が作ったクッキーを一口だけ食ってからそう言うと、残りの分は再びラップにくるんでしまった。 それって…やっぱり不味いんじゃねぇの?これ絶対、滅茶苦茶気遣われてる感じだよっ!うわ〜〜〜っ、もう死ねる… 滝本はこんな俺にもすげぇ優しくて、かっこよくて面白くて、話しかけられたり触られたりするだけでなんかドキドキして、それで気付いたら、あれ?これってもしかして恋じゃね?そんな感覚じゃね?なんて、俺は頭がオカシイ事に…… 俺マジきもいじゃん。滝本は誰にでも優しいんだよ。それに男を好きになるなんて、俺はどうかしてる。絶対拒否られるに決まってんのに、こんなもん渡そうとして何考えてんだよ。 「あの…不味かったら不味いって、言っていいよ。返してくれても良いし…」 「ん?……はぁっ!?ふざけんなよ、ぜってぇ返さねぇからなっ!!!!!」 ひぃっ、めっちゃ怒られた!なんか分かんねぇけどめっちゃ怒られた!! 滝本の声は結構響いた。気付けば教室中静まりかえっていて、俺達は周囲から注目を浴びまくっていた。 「あ、いや……え?」 …どうしよう、パニック!俺何で怒られたのっ? 「おま、これ食うなって言われたらお前を食うからな!」 ますます意味分かんねぇっ!!そんなに甘いものが好きだったのか??意外だ… … 「じ、じゃあ全部あげるよ…」 「マジでぇっ!?なんか悪いな。そんなに言うなら全部貰ってやるよぉ。」 そして滝本はまた、眩しい程の笑顔を見せた。なんて眩しいんだ、目がイタイぜ。 つーか、情緒不安定かよ… 前から彼は天然だなーとは思ってたけど、ますます彼が解らなくなった。でもそんなとこも良かったりして…って乙女か俺は。きもすぎるぞ俺っ!!…いや、俺は悪くない!滝本がかっこよすぎるのがいけないんだ! 結局滝本に紙袋ごと全部渡してしまった。もう手元には何も無い。まあいいか、あいつらにはテキトーに言って誤魔化そう。 ―――… 『ざまあみやがれ、宮村のクッキーは俺だけのものだ!そして宮村も俺のものだ!全部俺のだっ!フハハハハハッ…!!』 『今日は甘いもの好きな滝本の意外な一面を知れた。よし、これから色々作ってポイント稼ぐぞっ!そしてゆくゆくは……うわーっアホか俺!何妄想してんだ、ばかばかっ!!』 オチてないけど終わり。 [*前へ] [戻る] |