手袋ウサギ2
C
あ、違った。西野だった。
「この前俺ん家にエコバッグ忘れてったろ。」
「えっ、あれ三浦ん家にあったの?」
「おう。」
「良かったぁ。どっか落としてなくしたと思ってた。あれ母さんのだからさ、軽く怒られたんだよね。“母の日にゆうかに貰ったやつなのに”ってさ。あ、ゆうかは俺の妹。」
西野はお母さんのモノマネをするように、途中声を高くした。何だか微笑ましい。
「そっか。…それと、この前付き合ってくれたお礼にこれ、お土産。」
俺は西野にドーナツの入った箱を差し出した。
「うわー良いのっ!?俺べつに何もしてないのにっ。」
物凄く良い反応が返ってきて、俺は心の中でガッツポーズした。
「今甘い物すげー食いたかったんだよね。マジありがと。」
すげー笑顔で言われたんですけど!すげー笑顔で言われたんですけど!!大事な事なので二回言いました。
俺はエコバッグを返そうと、上着のポケットを探った。
ジーンズのポケットを探った。
そもそも、持って家を出た記憶が無い。
「ごめん、忘れた。」
「え?」
「エコバッグ。」
「ええっ?」
「うわぁ俺何しに来たんだよ。」
「はははっ、良いよあるならまた今度で。それよりこれから用事ある?」
「何もねーけど。」
「じゃあ家でゆっくりしてけよ。一緒にドーナツ食おう?」
すぐ帰るつもりだったけど、いや全く期待してなかったっつったら嘘になるけど、まあ、兎に角ラッキー。
西野の部屋は、リアルなレベルで汚かった。ごちゃごちゃしてて、部屋の所々に色んな物が散らばってる。西野的にはこれはまだ良い方らしい。年末の大掃除でだいぶ片付けたから、かろうじて今のうちだけ部屋に人を上げられるんだとか。西野に好きなとこ座ってと言われて俺は、脱ぎ捨てられたように置いてあるスエットをどけてベッドに腰掛けた。
「寒いだろ?この部屋だけ暖房壊れてるから。これ使って、俺クサイ毛布。」
と言って西野が俺に毛布を投げてくれた。つい匂いをかいでしまう。
「こらかぐな。ホントにクサッとか言われたら俺そーゆーの結構本気で傷付くんだからね。」
「大丈夫、臭くねぇよ。」
「マジ?気遣ってない?」
「遣ってない。」
「ま、寒いの我慢するか臭いの我慢するかだな。」
「だから臭くねぇって。気にしすぎだろ。」
西野はさっきの雪はねで汗かいたからと言ってシャツを着替えると、脱いだシャツを持っていくついでに何か飲み物を持ってくると言って、部屋を出て行った。
なんだか落ち着かなかったけど、こんな気持ちは無かった事にした。男の着替えなんか見てドキドキしてたなんて、自分でも引くし。
西野の腕や腹は全然筋肉がついてなくて柔らかそうだった。
「俺思ってた以上に重症じゃん。」
呟いて、ぐるりと部屋の中を見回した。
ん?なんだこりゃ…
本棚に目が留まった。漫画の並びがぐちゃぐちゃだ。部屋の汚さはべつに気にならなかったけど、これはさすがにちょっとな……もう、しょうがないなぁ西野は。
西野が戻るまで、この漫画の並びを直す事にした。
数分後、西野がペットボトルのお茶とコップを持って戻ってきた。
「あぁ、直してくれてたんだ。その内やろうと思ってたんだけどね。」
と言いながら西野はテーブルの上の物をさっと下に下ろすと、そこにドーナツとお茶を置いた。俺の分も、コップにお茶を注いでくれる。俺はありがとうと言ってそのコップを受け取った。
「うわすげーっ、俺の好きなのばっか。」
ドーナツの箱を開けた西野のテンションが上がった。山下に選んでもらった事はこの際無かった事にしよう。俺だけの手柄という事にしてしまおう。山下?誰それ。そんな奴知らねーし。
「三浦さっきからなんかゴキゲンだよね。」
ドーナツをモグモグと幸せそうに食いながら西野が言った。
「は?そんな風に見えるか?」
やばい、顔に出てたみたいだ。
「やっぱさ、つー事はもしかしてもう新しい彼女出来た?」
西野は何が楽しいのか、ニヤニヤしながら聞いてくる。
「そんなすぐ出来るかよ。まぁでも、好きな奴は出来た…のかな?」
俺は西野から目をそらして曖昧に答えた。
「えっ、誰っ!?俺知ってる人?ねぇねぇ誰っ?」
西野は俺の腕を両手で掴んで揺すってくる。俺を見る目がキラキラしている。やめてくれないかマジで。口の横にチョコつけやがって。
「絶対言わねー。」
「何でだよ、良いじゃん。」
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