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手袋ウサギ2
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どん底から俺を救い出してくれたのは、なんとも意外な奴だった。

クリスマスイブの日に彼女にふられて、その上これでもかというぐらいグサグサとボロクソに言われた。重いとか、見た目だけで中身が無いとか、一緒に居ても全然楽しくないとか気が滅入るとか…恐らく、溜まりに溜ってたんだと思う。なのに何でこんな俺と、二股をかけてまでずっと付き合ってたんだと思うかもしれない。でもこれは、別れた彼女をかばう訳じゃないんだけど、俺のせいでもあるんだ。

俺はもう飽きられてるって本当は気付いてた。彼女が別れたがってる事も。でも認めたくなくて、気付いてないふりをしていた。彼女が別れ話を切り出しそうな空気になると、いつも違う話で誤魔化して切り抜けてた。こうやって誤魔化し続ければ、もしかしたら何とかなるかも…なんて。でも結局駄目だった。

それにしても、彼女の言葉は相当効いた。

俺がつまらない人間だって事は俺が一番よく知ってる。自分の一番嫌いな所だから。好きで夢中になれる事なんて何も無くて、俺の頭ん中は、この部屋みたいに殺風景で何の面白味も無い。何か置こうと思っても、何を置いて良いのかも分からない。こんなんだから、彼女が出来ると彼女ばっかりに気がいってしまう。結果、重いと言われる。

つーか、こんな空っぽな俺を心から思ってくれる奴なんて居るのかな。もしかしたら、俺が友達だと思ってる奴らも皆、上辺だけで俺と付き合ってるだけなのかもしれない。友達は多い方だと思ってたけど、気を許せるような奴なんて一人も居ない気がする。なんか気遣うし、嫌われんのこえぇし…

もう誰も信用出来ないと思った。

でもあの時、一人になるのは物凄く怖くてどうしようもなかった。一人きりになったら、俺は何処までも落ちていきそうな気がしたから。

わらをも掴む思いの時、西野は正にそのわらだった。物凄く頼りなさげだったけど、俺が掴むには丁度良い奴に思えた。最初から関係が浅い奴だったら気が楽だし、なんか断われなさそうだし、強引に拉致ってもそんな怒らなさそうだし、こいつにはべつに気を遣かう必要も無いだろう…とか思って。

西野の上着のフードを掴んだ時、何がなんでも離してやらないと思った。

西野はずっと俺の話を聞いてくれた。菓子をバリバリ食いながら。聞いてんのかよバリバリバリバリうっせぇなとも思ったけど、俺が無理矢理連れて来たんだから文句は言えなかった。

話は変わるが、俺はタメなのに敬語で喋ってくるような奴とか、君付けで呼んでくる奴が嫌いだ。遠回しにお前とは知り合い以上の関係になる気はねぇぞって拒まれてるみたいで、全く仲良くなれる気がしない。どうでも良いような奴はべつにそれで良いと思うけど、何でか西野は、どうでも良いと思えなかった。

西野の事なんて、深く考えた事無かった。ただのクラスメートで、いつもたまたま近くに居たから話しかけてたぐらいだ。

西野は話しかけやすい。毒とか棘なんて全く持ってなさそうで、空気みたいな奴だ。ん?空気って無いと生きてけねぇじゃん。俺は西野が居ねぇと生きらんねぇのか?

クリスマスの時から、ずっと西野の事ばっか考えてる。あの丸い顔ばかりが頭に浮かぶ。俺はあの時滅茶苦茶傷付いてたはずなのに、いつの間にかすげぇ気が楽になってた。西野と居ると何故か、じわじわと心が暖まってくる感じがした。俺が誰かの前で泣くなんて絶対ありえねーはずなのに、気付いたらあんな有り様だった。止めようとしても止めらんなくて、すげぇハズイなって思ってたら、何故か西野まで泣いてた。

「フフッ」

西野のぐちゃぐちゃな泣き顔を思い出して吹いてしまった。すんげーブサイクだったけど、一緒に泣いてくれた事がなんか、滅茶苦茶嬉しかった。心から笑ったのだって、いつ以来だったんだろう。忘れかけてた感覚だった。

コタツの陰から頭を出した手袋で出来たウサギを見た時、つい言ってしまった言葉は間違いなく本心だった。

抱きしめたくなった。


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あきゅろす。
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