ベビーフレーバー ※80,59,18,69→27総構われ気味,27×69のみ微裏ぽい要素有り:むくろさん変態注意報 +ベビーフレーバー+ 「…あっれー!ツナさ、デコの辺りから赤ん坊みたいな匂いすんのなー?」 ある昼下がりの教室で、山本がベタベタグリグリ俺の体を触りながら、そんな事を言い出した。 山本の過剰なスキンシップはいつもの通りだが、俺から赤ん坊の匂いがするなんてのは初耳。 「はぁ??赤ん坊の匂い?」 ランボ達のが移ったのかな? リボーンからは赤ちゃんぽい匂いなんか、漂ってきた記憶ないんだけど(あいつからはエスプレッソの芳しい香りしかしない) 山本はまだ俺をくんかくんかしてくる。 「てめェこの野球バカ!下んねえ理由つけて10代目に馴れ馴れしく触ってんじゃねぇぞ!今すぐ放しやがれ!」 「マジだって獄寺、ツナのココ、匂い嗅いでみ?」 「えー!そんなん気のせいだって…」 いきり立つ獄寺くんに、ズイッと山本が俺を差し出すと獄寺くんはあわあわし始めた。 ってか、赤ちゃんの匂いって何? ミルクの匂いって事? 「え、いいんスか?!10代目!」 …別にキスしようとしてる訳じゃないし、オデコの匂いくらい良いけどさ。 どうして獄寺くんの呼吸が荒くなっているかは余り考えたくないなぁ。 「きょ、恐縮です、失礼します10代目!」 うわぁ、人間の鼻息ってこんなに熱くなるんだ! 怖いよ獄寺くん! 「は…ふぅっ…ミ…ミ…ミルクの匂いがします10代目ぇ……!」 「な?するだろ?」 自分の主張が認められて山本は嬉しそう。 余計なことやらかしてくれちゃって、獄寺くんが俺の髪に鼻先を埋めたまんま動かないじゃん。 カッコいいんだよ獄寺くん、だから余計怖いんだ。 なんで俺のオデコの匂い嗅いで興奮してんの。 「はぁあ〜、すぅうう〜っ……赤ちゃんみたいにホンワカする香り…10代目、まるで貴方は天使です、可愛いっす10代目ぇ〜!」 「ぐぎゃっ」 理由は分からないが、感極まったらしい獄寺くんがガバリと俺を抱き締めてきた。 此処は教室だ。 教室なんだ。 突然の暑苦しい抱擁に、周りの女子達から黄色い声があがるのは至極当然と言えた。 俺は手触りの良い灰色がかった彼の銀髪を肩口にギュッと擦り付けられて、苦し紛れに両手をジタバタさせる。 ヤバい、女子の一人が生BLの如き光景を拝ませる為か、隣りのクラスに人を呼びに言ったのが見えた。 やめてやめて、写メ撮らないで! 「はははっ。もう充分だろ、独り占めはなしだぜ、獄寺ー」 山本がベリリと獄寺くんを引き剥がしたら、獄寺くんは脱力していたのかフニャフニャ床に座り込んだ。 山本ありがとう。 でもさ、目が笑ってないのが怖いんだ。 六限目の間中も、獄寺くんがデレデレにとろけきった表情で俺を見る視線が刺さってきた。 元の端正な顔立ちは跡形無く消え去って勿体ない。 んー。 額に指をつけて嗅いでみたけど、自分じゃ良く分からないな。 本当にするの? やだなぁ、こんな事知られたら京子ちゃんに子供っぽく思われる……まぁ、此処まで至近距離で話す予定なんか無いんだから心配無用か。 「あ、やっば。今日の宿題机の中に忘れてきた!ごめんね。取ってくるから先行ってて、獄寺くん」 靴を履き替えようと下駄箱まで降りてきたところで、俺はUターンを余儀なくされた。 獄寺くんは「俺が行きますよ」なんて申し出てくれたけど、自分で行った方が確実だ。 すぐ追いつくから、と言い聞かせて俺は教室へ戻った。 「あ…」 やっぱり獄寺くんを待機させて良かった。 廊下に立つ、酔っ払いのおじさんが上着をかけるみたいに学ランを肩に羽織った人物を見つけ、俺は立ち止まった。 「雲雀さん…」 どうしよう。 一人だから咬み殺されはしないはず、でもおっかない雲雀さんとはなるべく顔合わせたくない。 雲雀さんは俺の教室の前にいて、ものっそい真剣に中をうかがってた。 誰かを探してるのかな? 「…!」 雲雀さんと、目があった。 「あ、あの…忘れ物しちゃって…すみません、すぐ帰りますので………」 俺達が帰る時まだ生徒が何人も残ってたのに、教室は無人。 きっと現れた雲雀さんに怯えて全員慌てて退避したに違いない。 雲雀さん、何を見てたんだろ。 「君……」 ガラッとドアを開けるのと、雲雀さんに声かけられたのは同時。 「は、はい!?」 思わずビックーンと体が跳ねた。 雲雀さんは、俺を食い入るように見つめていて。 居心地、悪い。 「赤ん坊のにおいがするって、本当?」 こて、と軽く小首を傾げて雲雀さんが聞いてきたのはそんな事。 一瞬、何の話か分からなかった。 呆気にとられた俺は、傾いた雲雀さんの頭の動きに合わせてサラリと揺れた黒髪が夕日で明るい色に染まってるのを黙って見つめ返すばかりで。 「沢田」 「あっ、ハイ!」 誰から聞いたんだ、そんなの。 リボーン? ってか、この人が俺の赤ちゃん臭に興味示してるっぽいのは何故? 「いや、多分気のせいだと思います。俺がガキくさいから…あ。赤ん坊の匂いって言ってもリボーンの匂いって訳じゃないですよ」 雲雀さんが好きなリボーンの匂いがするんじゃありませんので、俺はそう言ったつもりだったが。 雲雀さんは、おいで、と俺を手招く。 「…えと…あのぅ……」 躊躇い二、三歩ほど近づくと。 雲雀さんの案外柔らかな手のひらが、俺の前髪を掻き分けて。 高いところにある彼の顔がオデコにぴたりと寄り添った。 「、ど…ですか?」 「…………………母乳の、匂いだね」 「マジですか!?」 きた! 雲雀さんからもお墨付きを貰った俺は正真正銘赤ん坊の匂いぷんぷんの男子中学生だ! 「沢田」 「……はい?」 赤ちゃん臭のレッテルが恥ずかしかった俺は、顔を真っ赤にして雲雀さんをじいと見上げた。 「ひばりさん、俺、もう行っ「さわだ」 …………やたら名前呼ばれてる。 まだ何かあるの? こんな廊下でこんな恐ろしい人と密着している様を目撃されるのはご勘弁なのに。 「どうして、そんな目で見てくるの」 頭の悪い俺には、言ってる意味が分からない。 「…反則でしょ……」 傍から見れば熱烈に近距離で見つめ合う俺達。 この状況は一体。 そのうちに雲雀さんの唇がかすかに動いて、何事かを呟いた。 聞こえない、 「…あの、…なんでしょうか…?」 「っこ、したい…」 「え?」 「抱っこしたい」 ワオ! あの鬼の風紀委員長、雲雀さんが俺を抱っこしたいとご希望くださったように聞こえた! なんという聞き間違いだろう! 聞き間違いに決まってる。 怪訝な表情の俺に、雲雀さんは 「抱っこしてあげてもいいって、言ってるんだけど?」 謎めいた言い直しをした。 そして、両腕を回してギュッと抱きすくめられる。 「ううぐ…っ、」 力加減てモンを知らないのだろうかこの人は。 思い切りギュウギュウやられて、苦しくてかなわない。 雲雀さんの肩にかかった学ランが床にばさり、と落ち広がった。 「可愛い。さわだ、可愛い」 俺はっ、可愛くないしっ、今とっても苦しんでます! あなたが慣れないクセにそんなコトするから! 『みーどーりたなーびくーなみもーりのー』 ぐえっ、 奇っ怪な悲鳴が洩れた。 肺に残った最後の空気を押し出された俺のもとに ぱたぱたぱた、 羽音をたてて救世主が飛んできた。 『ヒバリ、ヒバリ!』 雲雀さんは、急に冷静さを取り戻したらしく、ばっ!と俺から離れた。 自分のキャラを忘れていた彼は、ヒバードを頭に乗っけたまま後ずさると、踵を返してツカツカ歩き出した。 早歩きし過ぎて振り落とされたヒバードが相変わらずヒバリ、ヒバリ!って呼んで彼を追いかける。 しかし、数歩先で学ランを落とした事実に気がついた雲雀さんはトコトコ戻ってきてソレを拾った。 「取り締まられないうちに、早く帰りなよ…またね」 そう言い残して去る雲雀さんは、もういつものクールで寡黙な雲雀さんだった。 顔が真っ赤なのは、きっと夕日のせいだ。 引き留めてたのは雲雀さんなのになぁ。 ふらふら玄関まで行くと、獄寺くんは律儀にさっきの場所で俺を待ってくれていた。 「10代目!」 「獄寺くん、先に帰ってくれて良かったのに……ごめん、遅くなって」 「いえっ、俺はあなたの為なら何時間だって待ってられま…あの…なんかあったんスか?10代目、お顔の色が……」 「あ…、ううん、大丈夫…帰ろう獄寺くん」 ああ、すごい怖かった。 寿命縮んだ。 俺が真っ青な顔になっているのを知ったのは、俺を心配して家の玄関まで送ってくれた獄寺くんと別れてようやく部屋にたどり着いた後だった。 ついでに、当初の目的である今日の宿題を結局忘れた事も知った。 「もー最悪っ、雲雀さんのせいだ!」 → [→#] |