すべてのおわり、そしてはじまり
この物語を、私の師匠、兄弟子、兄のように慕ったあの人と、親友、二人の恩人に捧ぐ。
一章 留紺の君
私がかの人を知ったのは、そう、父の書斎でありました。私は書棚の二段目にすら手が届かぬほど幼かった。それでも、彼が紡ぐ言葉の美しさに一瞬で引き込まれたものです。私が物書きになる事を決めた瞬間でした。
(中略)
二章 蜜柑の君
私があのお屋敷で過ごしたうち、最も触れ合う時間が長かったのは兄弟子でした。それにも関わらず、親しくなるまでに最も時間がかかったのは彼です。彼の不器用な物言いはいつでも私を支えてくださいました。
(中略)
三章 淡藤の君
思えば私を月白の君なんぞという恥ずかしい名で呼びだしたのは彼でした。よほど彼の方が白く透き通るようだったのに。彼の手は温かく、私の手を包み込んでくださったものです。今でも、あの手を懐かしく思います。
(中略)
四章 天鵞絨の君
彼は君なんてタチではないのですが。にこにこと音がするように、周りに笑顔を分け与える人でした。私の唯一の心残りは、別れの時に彼の笑顔を見られなかったこと。あの頃私たちは無二の親友同士でしたね。
(中略)
五章 弁柄の君
彼の姿は私に、大人というものを教えてくださりました。あのお屋敷は彼の箱庭だったのでしょう。ついぞ彼の余裕を崩すことはできませんでしたが、この物語で一矢報いることができますように。
(中略)
六章 真紅の君
私は真の愛とはかの人のことだと思っております。彼の壊物に触れるような丁寧な指先と怯えた表情。一生忘れることはできません。私の言葉では、彼の愛を語るには幼すぎる。この本が彼らの手に渡ることを祈って。
(中略)
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