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世界はキミのもんだ!
眩しい春(日本誕生日)
「日本さん」
「はい?」

振り返ると、トタトタと桜さんがこちらに走り寄ってくる姿が見えた。着物で小さくなる歩幅のせいで、その足取りは必死なあまりに危なっかしい。
ハラハラしながら見ていると、案の定、床板の僅かな段差に引っ掛かり前のめりに倒れていく。

「危な…!」

慌てて駆け出し、その身体を支える。
国の中で小柄な自分よりも小さい桜さんの身体は、思っていた以上に華奢で、思わずどきりとしてしまった。

「す、すみません…!」
「いえ…大丈夫ですか?」
「はい…」

わたわたと離れた桜さんは、着物の裾を直しながら恥ずかしそうに頬を赤らめる。
私は、そんな桜さんの仕草が好きだ。
外国の方々は、はっきりした性格の方や接触の多い方など、私の家にはいない強烈な印象のある方が多い。そのおかげで、たまに自分の家の人のような控えめな対応が恋しいと思うことがある。
桜さんのような方は、自分の中では珍しい癒される存在になってきているようだ。

「私に何か用があるようでしたが」
「あ、そうでした」

はっと顔を上げた桜さんは、身なりを正しながらこちらを見上げる。

「お誕生日、おめでとうございます」

そして懐から何かを取り出し、口の中でモゴモゴと何事かを言いながらゆっくりと差し出してきた。

「あの…こういったものを作るのは初めてでして…」

そう言われて、これは私に宛てられたものだと理解する。

「ありがとうございます」

まさか桜さんが祝ってくれるとは思っていなかったので、嬉しさで自然と顔がほころんでしまった。
白く小さな手からそれを受け取り、まじまじと見つめる。
桜さんは、初めて作ったと言っていたが、これは何なのだろう。片手に収まる大きさの箱で、綺麗に包装されてある。

「開けてもいいですか」
「えっ、あ、どうぞ…」

更にそわそわと落ち着きなく視線をさ迷わせだす桜さん。
それを気にしながらも包みを開けば、それは丁寧に作られた練り菓子だった。

「すごいですね…本当にありがとうございます」
「いえっ…お口に合うとよろしいのですが…」

見た目はお店で売っているものとそう変わりない。
色合いも綺麗で、食べるには勿体ないと思ってしまう程だ。
ふと思い付いた私は、桜さんの手を取った。そして笑みを向ける。

「お時間、ありますか?」
「あ…だ、大丈夫です…っ」

少し裏返った桜さんの声がまた可愛いと思えて、更に笑みを深める。
そして、そのまま桜さんの手を引いて縁側へと向かった。
今日は色々と出掛ける予定が多かったので、着物ではなく軍服を身に付けている。今は一段落ついたところだ。
歩幅に差が出るためなるべくゆっくりと歩いていれば、桜さんはきゅっと手を握り返してくれた。思わず笑みを浮かべてしまうくらい、表情が緩む。
途中で台所に寄り、お茶を入れた湯飲みを二つ持ってくる。私の家に来慣れている桜さんは、すかさずお盆を持ってきて縁側まで運んでくれた。
そのお盆を引き継ぎ、縁側へと談笑しながら進む。

「まさか、桜さんに祝っていただけるとは思っていませんでした」

縁側に二人腰掛けてお茶を啜る。ここ最近忙しかったのが嘘のように、ほんわりとした空間に癒されていく。

「あ、あの…ご迷惑ではなかったでしょうか…?」

不安げにこちらを見た桜さんに微笑みかけ、首を横に振る。

「いいえ。むしろ、今までで一番嬉しい誕生日ですよ」

かなりの年月を生きてきたけど、今日みたいに心が温かくなるようなことはなかった。
それはやっぱり、桜さんが隣にいてくれるからだと思う。

(他の外国の方に染められちゃいましたかね)

こんなに恥ずかしい台詞を普通に言えるなんて。
桜さんを見れば、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。

「来年もこうして、縁側で一緒にいてくれますか?」

数秒後、慌てて頭を縦に振る桜さん。
その応えに満足した私は、また練り菓子を口に含んだ。

甘く、柔らかい時間が溶けていくようだ。









眩しい春
(光は目蓋を押し上げて、)(ゆっくりと優しいほうへ導く)



―――

日本おめでとううう!!
改めて日本人でよかったと思います。

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