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03



島が見えたぞ、と見張り台から張り上げられた声が船内に響く。

ほぼ同時に諸々の手続きを終え島からモビーへと戻った俺は、入港準備をするナマエに駆け寄った。

「ナマエ、船が入ったらちょっと付き合えよい」

「え?」

「オヤジの使いで顔出しにいかなきゃいけない所があるんだが、用事はすぐ済むからその後適当にぶらぶらするよい」

「それって……」

デートってことか、と言い切る前に、ナマエは顔を赤くしてソワソワし出した。思わぬ反応に俺もつい赤面してしまう。


まさかそんなに喜んでくれるとは思わなかった。ナマエが自分から「ああしたい」「こうしたい」と言ってこないのなら、自分のやりたいことに付き合わせる形ならどうだろうか、と考えた末の案だった。

落ち着かない様子でロープを拾ってはそれを樽の上に置き、またそのロープを持っては指先で弄る、と意味のない行動を繰り返すナマエはかなりの挙動不審だったが、それが見れただけで俺はもう満足だ。そこまで喜んでくれるなら誘いがいがあるってものだ。

しかし毛羽立ってボロボロになり始めたロープが少し不憫だ。

「落ち着けよい」

「うあ、うん。そうだな、落ち着こう、マルコ」

「お前だ」

トス、と手刀で軽く頭を叩く。うう、と呻きながらもロープを弄くるのを止めたナマエの顔は、未だ赤みが引かないままだった。





オヤジの使いを済ます間にナマエの様子は普段通りに戻っていった。

通りを歩きながら適当に気になる出店を冷やかすだけの、さして特別感のないデートではあるものの、ナマエはとても嬉しそうにしている。


(これで海軍を警戒しつつ、とかで無ければもっといいんだけどねい)

支部がないことは確認済み、海軍船も港には無かったとはいえ完全に安心できるとは言えない。咄嗟の時に逃げにくくなるため店内には極力入れないし、一般人ばかりがいるような場所でも浮いてしまって居心地が悪い。普段であれば気にならないのだが、せっかくなんだからナマエの気に入る所に行きたいと思ってはみても意外と選択肢は少ないのだ。


露店商が建ち並ぶ通りをゆっくりと歩きながら、ナマエは「あれはエースが好きそうだ」「サッチにはこういうのが似合う」「イゾウっぽい」と色々と見てはいたが、結局立ち止まって眺めるほど気に入った物は無かったらしい。

「俺はあんまり装飾品とか付けないからなぁ。見てるのは楽しいから好きだけど」

「ああ、そうだったねい」

あわよくばプレゼントでもできれば、と目論んでいたのだが。思惑が外れて少しだけ残念だったが、それでもナマエが楽しいのであればそれでいいかと思えた。





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