張り詰めた雰囲気の隊長室に突如その空気を緩ませる声が響く。 「息子に心配されるようじゃあ、俺も年老いたなァ」 「オヤジ!」 振り向くとオヤジが立っていた。久しぶりに見るその姿は少しだけやつれているが、想像していた最悪の状態よりも随分と元気そうだ。体調はどうなのか、起きてて平気なのか、聞きたいことはたくさんあったが、現状それどころではない。
「マルコが捕まったってな」 「…ああ」 「あいつはちっとばかり自分の力を過信してるところがあるからなァ、いつか痛い目見るとは思っていたが、タイミングが悪かったなァ」 一刻も早くマルコを助けに行きたい俺らに対し、オヤジは落ち着きすぎるほど落ち着いていた。 「オヤジ、マルコは、マルコを助けに行かないと」 「ああ、当然だ」 サッチの訴えに躊躇なく頷いたオヤジを見て、隊長たちが声を上げる。 「オヤジ!!でも…!」 「なんだァ?俺がこのくらいでくたばるとでも思っているのか。だいたい息子を見殺しにするようじゃ、病気云々関係なく俺ァもう死んだも同然だ」 グララ、とオヤジが笑い、その後真面目な顔つきに変わる。
「モビーを動かすぞ。マルコを助けに行く」
オヤジが宣言し、ようやく部屋の空気が変わった。オヤジが倒れてからどこか船内は不安げな雰囲気が漂っていたが、それが一気に消え去る。やっぱりオヤジだ。オヤジがいないと、何も始まらない。
「ナマエ」 出航準備に駆け出す俺をオヤジが引き留めた。 「海軍船には全勢力をもって喧嘩を売るが、マルコはお前が助けろ」 「…え?」 どういうことだ、と首をかしげる俺に、オヤジは諭すように言葉を続けた。 「いいか、今回は海軍を潰すことが目的じゃない。マルコを助け出すことが最優先だ」 「…?うん」 「俺らが外で海兵を引き付けている間にお前はマルコを探し出せ。仮に海軍の名のある連中がいたとしても、俺の姿が見えれば無視するわけにいかんだろう。お前には海軍船内へ入ってマルコを助け出す任務を与える」 「……」 「分かるか。お前が、助け出すんだ。絶対に」 「……分かった」
ゆっくりと、深く頷いて了解を示した俺に、オヤジはふと笑みを見せてその場を離れた。隊長でもない、ましてや賞金首にすらなっていない俺に、オヤジが何を考えてそうしたのかはわからなかったが、俺はずしりとした重いものを渡された気がした。それは多分、マルコの命の重さだ。
うつ向いて自分の手のひらを見つめる。緊張からか微かに震え、じっとりと汗をかいていた。 できるのだろうか、俺に。 ぐっと握り込んだ手はあまりに小さい。 いや、やらなくてはいけない。この頼りない手に、マルコのすべてがかかっている。
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