そしてそれからさらに月日は経ち、待ちに待った復帰の日がやって来た。 「…よし、じゃあそろそろ復帰するか」 「やったー!」
ドクターからの診断書を持って訪れた隊長室でようやく俺は実戦復帰の許可をもらえた。本当に嬉しい。腹を撃たれた日から約三ヶ月、早かったのか遅かったのかは分からないが、俺には酷く長く感じる三ヶ月だった。 「早く海賊か海軍襲ってこないかな」 ついそんな発言をしてしまった俺に、隊長は「アホか」と拳骨を落とした。負傷中は皆どこか俺の怪我に対して力加減をしながら接してきていたから、久しぶりの鉄拳はむしろ嬉しかった。拳骨を落とされたのににやにやしている俺に、隊長は「変なやつだな」と言って笑った。
・
「何はともあれ全快おめでとー」 「おお!ありがとう」 今部屋には仲間たちが所狭しと集まっている。俺の全快を祝って、皆が酒盛りを計画してくれた。 「全快祝いだ、飲め!」 いつの間にか持たされていたジョッキにどんどん酒を注がれる。サッチの持つその瓶のラベルを見て、俺はギョッとした。 「ちょ、ちょっとサッチ、こんないい酒どこで手に入れたんだよ?!俺らが買えるようなもんじゃないぞこれ」 「えへへェ、うちの隊長とちょっとポーカーでな、俺が勝ったら隊長が隠し持ってる秘蔵の酒ください、っつって貰ってきた」 「ええぇ…」 いいのかそれ。だからさっき4番隊隊長がなんか恨めしげな目で見てたのか。悪いことしたかなぁと思いつつも、でもこんないい酒滅多にありつけないからありがたく頂きます。
「っわ!うま!」 「だろー?」 「ナマエ、こっちも飲んでみろ」 「わ、わ、こぼれるこぼれる」 代わる代わる注いでくれて、すごく楽しい。ここしばらくずっとリハビリだ勘を戻すための訓練だで夕方ごろにはもうクタクタだったから、こんな時間を過ごすのも久しぶりだ。言葉の端々に皆が本当に心配してくれて、そして本当に回復を喜んでくれているのが伝わる。 ありがたいなぁ、嬉しいなぁ、楽しいなぁ。俺だけでなく皆始終ニコニコして、とてもいい酒盛りだった。
すっかり夜も更け部屋のあちこちで皆が折り重なるように眠る中、俺は未だマルコとサシで飲んでいた。 「ナマエは顔に似合わず意外と酒強いねい」 「あー、うん。そうかも。元々量飲む方じゃないとは思うけど、酔ったことないし」 イゾウが持ってきたワノ国の酒っていうのも中々おいしい。マルコのカップに注ぎつつ、顔が緩むのが止められないでいる。皆で飲むのも楽しくて好きだが、マルコとサシでっていうのもまた嬉しい。
リハビリの最中俺は朝早くから遅くまでそれにかかりっきりで、部屋に戻っても死んだように寝ていることが多かった。 リハビリは、肉体的にというよりは精神的にキツいものだった。体力や筋力の低下、以前簡単にできていたことができなくなっている、と認めるのは苦痛だった。 リハビリの最中、度々俺はどうしても頑張れないと強い負の感情に襲われることがあり、その都度マルコが支えてくれた。マルコが隣で添い寝してくれるだけで不思議とイライラや不安がなくなり、また明日リハビリ頑張ろうと思えたのだ。 寝ている時以外ほとんどマルコと一緒にいる時間が取れなかったから、ちゃんと顔を付き合わせて話ができる状況は本当に久しぶりで、少しだけドキドキする。
「マルコも、ありがとうな」 「…俺はなにもしてないよい」 「そんなことない。撃たれたのを運んでくれたのもそうだし、リハビリ中だってたくさん助けてもらった」 「……」 「だから、ありがとう」 ペコ、と頭を下げる。言いたいことを言えてスッキリしている俺に対し、マルコは静かに黙ったまま目を伏せていた。 その表情を見て、俺はふとあの負傷した日の船医室でのマルコを思い出していた。そういえば色々忙しくて忘れていた。あの時もこんな、何か言いたいことを我慢するかのような顔をしていたのだ。
「マルコ?」 「…ナマエ、俺は」 意を決したように顔をあげたマルコが何かを伝えようとする。 しかしそれを遮ったのは、船内中に響き渡る警鐘の音だった。
「敵襲っ?!」 音に反応し、酔いつぶれていた全員が一斉に立ち上がる。バタバタと部屋を出てサッチたちが戦闘準備に入るのと同時に、俺も壁に立て掛けてあった自身の武器を手に取った。 この重みを感じるのも久しぶりだ。いいタイミングで来てくれた。リハビリ明けで、どのくらい体が戻っているのか実戦で確かめたいと思っていた所だ。 「マルコ、行くぞ」 「ナマエ」 俺も自分の隊長の元へ向うため部屋を出ようとする。しかしマルコは、肩を掴んで俺の歩みを止めた。 「…?マルコ?」 「出るのかよい」 「?そりゃあ…敵襲だし」 「隊長が許可しても、俺は許さないよい」 「は?何言って」 俺が言い終わる前に、首に鈍い衝撃を受けた。何が起きたのかも分からずに俺の意識は混濁していく。
「…ナマエは戦わなくていいよい」 そう呟いたマルコの言葉は、完全に意識を失った俺には届かなかった。
|