俺がその相談をしにドクターの元を訪れたのは数日ほど前のことになる。見習い明けの頃はよく世話になっていたが最近はほとんど怪我らしい怪我をすることもなかったから、ここに来るのはかなり久しぶりだ。扉をノックして入ってきた俺の顔を見て、ドクターも「珍しいな」と驚いた顔を見せた。 「ドクター、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」 「なんだ、どうした」 「マルコやサッチたちと同じようにトレーニングしてるのに、なんで俺あんまり筋肉付かないんですかね?」
同じ年齢で同じ生活をしているにも関わらず、俺は他の仲間たちに比べていつまで経ってもひょろっと細身なままだった。どんなにトレーニングしてもいまいち筋肉が増えないのだ。腕の太さや胴回りになるとその差は非常に分かりやすい。食事が問題かと思いそっちに気を付けてみたが、やはり結果は変わらなかった。町に住むような一般人と比べれば俺は体格がいい方に分類されるのだろうが、仲間たちに囲まれるとどうにも貧弱に感じる。 スランプを越えるためならと、俺は片っ端からその原因となりそうなものを探していた。体力の低さを感じれば日々の訓練に組み込んだし、隊長に頼み込んで実戦訓練の相手もしてもらっている。原因を片っ端から潰していけば、いつか次のステップに進める気がするのだ。
不思議そうな顔で瞬きをしたのち、ドクターはどれどれ、と俺に腕を出すよう言った。 「…ちゃんと付いてるじゃないか。特に問題もないぞ?」 「そうじゃなくて、こう…筋肉量が少ない気がするんです。食事量も、運動量も同じなのに」 俺の訴えにドクターはようやく合点が行った、と大きく頷いた。 「お前どこの海出身だっけか」 「グランドラインですけど」 「親は?」 「両親も同じですが、確かうちのルーツはイーストブルーだって聞いたことがあります」 ドクターはその長い顎髭を指で弄りながら、「あー、だからかもな」と一人納得したような声を上げた。
「イーストブルーの血筋は肉体的に成長しにくいっていう説がある。他の海に比べて低身長で、華奢な体つきになりやすいんだ。お前の家族はどうだった?」 「…確かに祖父も両親も小柄でした。家を出る前には俺はもう父親の身長超してましたし」 「じゃあ両親たちの方がお前より強くその血筋が出たんだな。まぁ、そうは言っても最近は混血が多いからそこまでハッキリと出るのも珍しいが」 「…そうですか」 落ち込んだ様子の俺に、ドクターが笑って話を続ける。 「ただの体質だよ。病気ってわけじゃあない。何、筋肉ばかり付いていれば良いもんでもあるまい。特にお前は力でごり押しするタイプじゃないだろう。あんまり筋肉つけると体が重くなって今度はスピードが落ちる。現に、お前の戦い方と体つきはバランスがいいぞ?」
ドクターの言うことが理解できないわけではないが、俺は少しばかり落胆していた。筋肉量がすべてだとは思っていないが、そこをどうにかすることで壁が突破できるんじゃないか、という淡い期待を抱いていたのだ。さすがに人種的な部分の話になってしまっては、それを越えて改善するのは諦めざるを得ない。
「あんまり悩みすぎるなよ、努力してる成果はちゃんと結果として出てくるもんだ」 「…はい」 ペコリ、と小さく頭を下げて、俺は部屋をあとにした。
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