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ナマエの様子から察するにまとまるのも時間の問題だな、と思われたマルコとの関係だが、予想外に事態は上手く進まなかった。ナマエがマルコを徹底的に避けるようになったのだ。

同じ船で生活し立場も同じ見習いである以上、顔を合わせないことなど不可能なのだが、ナマエは涙ぐましい努力でマルコと距離を置こうとしていた。





乾いた洗濯物を運ぶ道すがら、ナマエは難しい顔をしている。最近はずっとこんな表情だ。何か考え込むような、今まで見たことない真剣な表情。思い当たる原因がマルコ以外考えられない以上、俺もどう声をかけたらいいのか迷ってしまう。ナマエが何にそんなに悩んでいるのか分からないからだ。

マルコが好きなら好き、嫌いなら嫌いでいいじゃないか、俺はそう思うのだが、ナマエにとっては何かひっかかりがあるらしい。


「サッチ」

後ろからかけられた声に、呼ばれたわけでもないナマエが硬直した。

「隊長がこれ急いで準備しとけってよい。渡せば分かるって言われたけど」

「あー、うん。聞いてる」

マルコが寄越したリストをパラパラとめくって中を確認した。

「ちょっと待ってな、洗濯物置いて来てからこれやるから」

「いいよサッチ、俺が片付けてくる」

そわそわと落ち着きなく視線をさ迷わせていたナマエが、マルコとの会話を遮り俺の手から洗濯物の籠を奪い取った。元々両手一杯だったところに更に荷物を抱え込んで、前が見えてるのかも不明な状態になってしまっている。

「でも量多いし、お前まだ怪我治ってないのに」

「隊長が急いでって言ってるんだからそっち優先だろー?洗濯物直すくらい一人でできるよ。怪我だってもう治りかけだし」

そう言ってナマエは足早に去って行った。


よたよたと歩く後ろ姿を眺めながら、俺は口を開く。

「ナマエ、思いっきり避けてるな」

マルコもナマエの態度の変化に困惑しているらしく、肩を竦めて分からない、と言った。

「押しが強すぎんじゃねェの?もうちょいこう…適度に押したり引いたり」

「駆け引きなんてどうやったらいいか知らないよい」

え、マジか。それでよく口説こうと思ったな。意外とチャレンジャーなんだな、マルコ。

「…思ったほど上手くいかないよい。押しに弱そうだからすぐ落ちると思ったんだけど」

意外と頑固だねい…、そう呟いたマルコの顔は、少し落ち込んでいるように見えた。


そりゃあそうだろうな、と俺は思う。

マルコは人前で堂々告白できちゃうような神経の持ち主だけど、でもその相手に避けられ続けて全くなにも思わないわけはない。

避けるほど嫌なら、もっと分かりやすい、決定的なセリフで振ってやればいいのに。いくらマルコが諦めないと言ったところで、ナマエにこれっぽっちも気がないなら意味がない。ナマエだったらそんな回りくどいことしないでハッキリ言いそうなもんだけど。


…ん?あれ?ってことは、そういうこと?


「俺としてはかなり脈アリだと見てるんだけどな」

ポロッと口から出た言葉にマルコが食いつく。

「本当かよい」

「たぶんな。マルコ、お前なんて言われたらさすがに諦める?」

「…男は恋愛対象に見れない、とか」

「だよな。俺もそう思う。ナマエは口説かれたくないから避けてる。でも、避けるばっかりでマルコに対してなぜか『男は無い』とか言ってこない。当たってる?」

「よい」

顔を寄せてヒソヒソと話し込む。

「ってことは、ナマエには口説かれると困る理由があるってことだ」

「……?」

「これ以上口説かれるとほだされちゃうって、自分でも分かってるんじゃないかってことだよ。ナマエああ見えて頑固で負けず嫌いだからな、素直に落ちたって認めるの悔しいんじゃないの?」


俺に良い考えがあるんだけど。

そう言って笑った俺の顔は、きっとかなりの悪い顔をしていただろうと思う。




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