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あの後すぐに例の件をアイスバーグさんに報告すると、明日隣町やらなんやら各エリアのトップを集めて対策会議を行うこととなった。同時にその情報自体がどこまで信憑性があるのかも調べるらしく、電伝虫をフル動員しあちこちに連絡を取り始めている。

憶測でしかないが「もしかしたらそういう奴等が既に」という意見も念のため伝えると、アイスバーグさんは神妙な面持ちで頷き、その可能性も考慮に入れた上で話し合うことを約束してくれた。

もう少し確定情報が得られるまでは一般公表はしない方が良い、との判断から、この件に関しては許可が降りるまで口外しないことを約束し、ガレーラ内では俺、ルル、タイルストン、エリー、そして立場的に把握していないといけないナマエがとりあえずその件に関して耳に入れていることになる。



しかしナマエは、……多分、事態を正確に理解していない気がする。おそらくナマエのいた世界には海賊なんて奴等はいないのだろう。海賊という存在を正しく認識していないのだろう彼が、「海賊や海軍が絡んだ世界規模の事件が」と言われて、俺らと同じように危機感を感じることが出来るとは思えない。

相手がどういう人間であっても普通に迎え入れ歓迎してしまう、だからこそより強く危機感を持って欲しいと思うのだが、こればかりは仕方ない。相反することを要求してもそりゃ無理な話だ。

それならば周りが注意してやらなくてはいけないところなのは理解している。そしてその役目は、ナマエの不思議な体験を深く知る者が担うべきであることも。





報告を済ませた後、俺は執務室で書類作業に終われていた。海列車関連で事前準備をしなくてはいけないことが山積みで、あと数日間は嫌いなデスクワーク続きとなりそうだった。

ナマエも俺と同じように机に向かって書き物をしており、じっと静かに机に視線を落としている。アイスバーグさんが席を外し、執務室は二人きり。今日はティラノサウルスはアイスバーグさんの元にいるのか、俺らの間の沈黙を埋めてくれる要素は何もなくちょっと息苦しい。



とりあえず、ナマエに酒場通りに行ってるのかを確認しなくてはならない。それで本当であるならば、行くのを控えるように言って、それで……。

(……それで、何をどう言えと)

ナマエのプライベートな時間に何をしていようが、俺には口を出す権利などない。そこに踏み込む以上、当然「なんで?」という返事が返ってくるだろう。危険だから止めておけ、それで済むならば一番簡単だが。

本当に、そんな表面的なことで済ませていいのだろうかと自問する。



『一度もナマエに本音をぶつけてねェままだろうが』



ああ、そうだ。その通りだ。ぶつけようにも、俺が自分の気持ちを自覚した時はなにもかも終わっていた。他の誰でもない自分自身が終わらせてしまっていた。だから今更波風立てる必要はないだろうと、そう思っているのだ。

だがルルの言うことももっともだ。俺の見た、ナマエの部屋にいたあの人物が誰なのかも、ナマエとの関係も分からないし、ナマエの今の気持ちすら何一つ俺は知りはしない。

じゃあ、だとしてもどうしろというのだ。本音をぶつける?

「実は後から自分の気持ちに気づきました」?

「だから、今からでも改めて」?

そんなこと言えるか。俺だったら殴ってる。元々尽かされてた愛想をさらに尽かされ尽くして、それで二度と視界にそいつの姿が入らないように無視しまくる。だが。



この消化不良な気持ちを残したまま、本当にこれから先何年も同僚としてやっていけると思うのか。殴られるだけで済むなら安いとは思わないか。愛想なんざ、今の状態で既に十分尽かされてるようなものだ。今、この未練を中途半端に残したまま、仕事仲間として上辺だけの付き合いを続けていくくらいなら、ちゃんと本音を伝えた方がマシじゃないか。

そして、もしまだ可能性があるのなら……。



「パウリー。俺そろそろ帰るけど、何かある?」

「え、」

ハッとして顔をあげると、ナマエがスーツに袖を通しながら帰り支度を始めていた。鞄の中に手帳を仕舞い、軽く机の上を整頓している。

「お前もう終わり?」

「もうっていうか……とっくに終業時間過ぎてるし。明日隣町の町長さんとか何人も来て会議するんでしょ?アイスバーグさんからその準備が済んだら終わりにしていいって言われてるから、一言挨拶して帰ろうとは思ってるけど」

「あー……」

時計を見上げれば、ナマエの言う通り1時間以上前に就業時刻を過ぎていた。自分の机の上に視線を戻すと、真っ白な書類がずらりと並んでいる。やべ、俺全然仕事進んでねェ。悶々と考え込んでいたせいで作業がストップしてるなんて、笑い話にもならない。

「ないなら俺……」

「ちょ、ちょっと待て!」

「……?」

慌てて呼び止めると、鞄を取ろうとする中途半端な姿勢のままナマエが首を傾げる。咄嗟に制止してしまったはいいものの、どうやって話を切り出せばいいのか全く良いアイデアは浮かんではいなかった。

「あー」とか「えーと」と繰り返す俺に、ナマエの顔が不思議そうに歪められ、次第に眉が下がり困り顔になる。その手は居心地悪そうに、頻りに鞄を弄っていた。

「用事あるなら、すぐ済ませてもらえると嬉しいんだけど。俺今から約束あるから、もう行かなきゃ……」

「!」

反射的に出た手がナマエの腕を掴み、無理矢理引き止めていた。ナマエは一瞬目を見開きビクリと肩を震わせたが、徐々にその表情は困惑したものへと変わっていく。

「……離して」

お願いというよりはむしろ命令的な口調でそう訴えるが、無視してその手に力を込めた。





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あきゅろす。
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