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05




っていうかおばちゃんの体温とか肌の感じとかリアルだなー。俺ここまで生々しい夢見てるの初めてかも。

「私はタナって言うんだよ。あんたの名前は?」

「……ナマエ、です」

「ナマエね。顔立ちもこの辺りじゃあまり見ない感じだし、他所の島から来たのかい?」

「えー、ええ、まあ」

なんかもう適当に話を合わせた方が懸命な気がしてきた。おばちゃんの質問に曖昧な返事を返しつつ歩いていくと、海岸から出て水路を抜けて、いつの間にか俺は町の中心っぽい広い通りを歩いていた。町全体は石造りの建物で統一されており、白い壁と赤い屋根が綺麗な町並みだ。ちょっと遠くには大きな橋や時計台も見えた。町のど真ん中にも幅の広い水路が通っていて、見たことない動物が泳いだり水路脇で並んだりしている。

「そうか、そしたら移り住んだ直後に被害にあっちゃったんだね。けどアクア・ラグナだけでウォーターセブンを判断しないでちょうだいね。確かにあれは毎年大変で、アイスバーグさんもどうにか被害を無くせないかって尽力してるけど、自然の力の物だからね、限界だってあるのさ」

「はい」

「ここはすごくいい町だよ。絶対気に入る。住めば住むほど良さが分かるってもんさ」

アクア・ラグナってなんだろ。ウォーターセブンってなんだろう。アイスバーグ、さん?人の名前かな?アイスとハンバーグのランチセットみたい。美味しそう。お腹すいたなー。

聞いたことのない単語がおばちゃんの口から次々と出てくる。聞いてもいいのかな。でも「なんですかそれ」って言ったら変な子扱いされそうな雰囲気があるようなないような……。



タナさんの後を着いていくと、徐々に町並みは異様な雰囲気へと変わっていく。地面の色が薄汚れていたり壁の一部が崩れていたり、あちこちに瓦礫や泥や流木が溜まってて、なんというか……俺がいた海岸や町の中心部に対して酷く汚れてるというか。

「おーい、若い男手だよー」

少し開けた場所へ着くと、タナさんが大きな声で呼び掛けた。その声に反応し顔を上げた人たちは、「おお!」と手を振り答える。

「ありがたい、人手が全然足りなくてよぉ!」

「やってもやっても終わらねェから、どうしようかって思ってたんだよ」

タナさんに促されるまま海岸へ下りると、そこには数人のおっちゃん達がいた。皆一様に体格が良くて腕もガッシリしていて、いかにもガテン系と言った感じだ。



タナさんはおっちゃんたちといくつか話をした後、俺の方へと向き直りにっこりと笑った。

「あんた、復興作業に協力しなさい。町のこっち側は結構あちこち崩れちゃっててね。それらを直したりキレイに掃除したり、やんなきゃいけないことはたくさんあるのさ。人手はいくらあったって足りないことなんかないんだから、あんたも何かすることがある方が気が紛れるよ」

「え?」

「まだ色々と諦めるには早いと思わないかい。あんたまだ若いんだし、これからいくらでも良いことがある」

「……」

うーん、自ら命を絶とうとしてたっていう誤解は解くべきなのかどうなのか。心配されるのは心苦しい気がするけど、でも誤解ですって言って「じゃあなんであんな所で泳ごうなんてしてたんだい」って聞かれてしまったら、どう答えたら正解か分からない。



………。ま、いっか。どうせ夢なんだし。

夢の中で、「あ、これ夢だ」って自覚できるのってなんていうんだっけ、覚醒夢?だっけ?こんな経験したことないし、まあ何をしてもしなくてもその内目が覚めるんだろうし。このまま状況に合わせて行動してみるのも、楽しいかもしれない。



「よろしくお願いします」



ペコ、と頭を下げてお礼を言うと、タナさんは満足そうにうんうんと頷き、その場にいた人たちを紹介してくれた。皆外人顔なのに達者な日本語だったことは言うまでもない。





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あきゅろす。
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