せっかく目の前で憧れのラージャンを見れるチャンスかと思ったのに、ガッカリです。 「………。なあんだ……」 ついため息がこぼれ、口からは落胆の声が漏れます。団長ばっかりずるい、と詰め寄れば一回くらい連れてってくれるんじゃないかと思ってたんですが。 ………あれ?
「……ナマエさん」 「なんだよ、もう。静かに飯食わせろよ」 「キャンプ地から出なかったって、なにしてたんですか?」 「っえ、」 ナマエさんの肩がビクっと震えましたが、この時の私はそれに気づきませんでした。 「だって、採取クエストに行ったんですよね?何も取って来なかったんですか?ずっとキャンプ地に居たって何もすることないでしょう?」 「それは、」 「それにナマエさん、普段から『採取面倒だから、必要な物は狩りついでに取ってくる』とか言ってるじゃないですか」 「あ、う、」 「?」 あれ?私変なこと聞いたでしょうか。ナマエさんの顔が再び真っ赤に染まっていきます。赤く染まったその顔は、……まさしくフルフル亜種! 「わあ、ナマエさん物真似お上手ですね」 「……」 手を叩いて称賛すると、ナマエさんが複雑そうな顔をしましたが、もう何も喋ってはくれませんでした。あら、何かいけないことを言ってしまったのでしょうか。怒らせたかな。「モンスターに似てる」と言うと皆さん揃って微妙そうな顔をします。誉めてるのに。 黙々と食事を再開してしまってそれ以上粘ってもなにも答えてはくれなさそうでした。残念です。私は諦めて、しぶしぶ仕事に戻ることにしました。
看板娘がカウンターへ戻り自身の仕事を再開した頃、先ほどまで彼女が座っていた席に腰かける者がいた。彼女は気づいていなかった。すぐ後ろのキャラバンの馬車に隠れるようにして、自分達の会話を聞いている者がいたことを。 「お嬢がボケボケで助かったなあ、ナマエ」 「……起きてたんなら助けろ」 「いやー、はっはっは」 帽子を被り直しながら日陰から顔を出した団長は、「すまんすまん」と口にしながらもこれっぽっちも悪いと思ってはいないようだった。昼寝していたことを証明するように後頭部の髪が少しばかり不自然に跳ねている。 「お前がああも焦ってるのが、珍しくてついな」 「……」 恥ずかしいところを見られてしまった。ナマエは内心小さく舌打ちをした。少し見栄っ張りで格好つけで、それが想い人の前であれば特にそうありたいと思うナマエにとって、先ほどのやりとりを見られたことは完全に誤算だった。まあ、取り繕ったところで今さらなのかもしれないが。 「何してたかなんて言えねェよなあ。なあ、ナマエ?」 ニヤニヤと笑みを浮かべながら団長が隣に座る。皿の上から勝手におかずをいくつか摘まみ、ひょいと口に放り込んだ。腹が立つ笑い方だ、不機嫌を隠そうともせずナマエは軽く彼を睨み付けた。 「仕方ねェだろうが。キャラバンじゃ……、その、あんま、二人っきりになれねェんだし、誰にも邪魔されない場所ったらキャンプ地しか思い付かなかったんだし」 「はっはっは、違いない」 しかしなあ。ふと笑いを止めた団長が困ったように眉を下げた。 「ああなると気づかれるのも時間の問題かもしれんなあ。お嬢もボケてるようで意外と勘が鋭い。俺はバレても構わないんだが」 「お、俺はもう少し……、時間が欲しい」
キャラバンの皆が自分らの関係を知ったところで、恐らくは何も変わらないだろう。変わったとしても、冷やかされることが増えるかもしれないといった程度だ。しかしナマエにはそれを打ち明けることに少しばかり勇気が要った。 それがアブノーマルな関係を周囲に告白することに対するものなのか、それともただ単に極度の照れから来るものなのかは分からないが。
「そうか。そしたら少し考えた方がいいかもしれんな」 「……あんたは、それで平気なのかよ」 逢瀬の機会を減らそう、そう言い出しかねない雰囲気に、ナマエの顔が歪み声が沈む。普段背伸びしがちな彼の年相応な表情は団長の好むところであり、そういう部分に時おり加虐心を煽られていることをきっと自分の半分程度しか生きていない若きハンターは知る由もないのだろう。 「俺はお前と違ってそういう盛りは過ぎたからな、上手くコントロールする術くらいは心得ている」 「………俺は、嫌だ」 周りから見えないテーブルの下で、ナマエの左手が団長の服の裾を握った。
好きであれば気持ちを伝えたい、思い合っていることが分かったのならもっと近づきたい、先へ進みたい、進んだのであればそれ以上に深く。そう願うのは年齢も性別も関係ない、誰しも同じなはずだ。
「俺は、もう我慢なんかできない」
その腕が、手が、どう自分に触れるのか。それを知ってしまった今、もう歯止めはきかないだろう。年齢相応の熱を持て余したまま、まんじりともせず夜を明かすのはもうごめんなのだ。
あんたはそうじゃねェのか。呟かれた言葉に、団長は年甲斐もなく胸が高鳴るのを感じた。 「……お前は煽るのが上手いねえ」 「はあ!?俺は真剣な話を」 帽子を外した団長は身を乗り出しナマエに顔を近づける。文句を言いかけた口を文字通り封じ、軽く触れるだけのキスをした。 「………」 こんな往来で、朝っぱらから。ナマエが口をぱくぱくとさせ、何かを言おうとしては止めを繰り返す。キョロキョロと辺りを見回し誰も見ていなかったことを確認すると、ホッとしたように息を吐きジロリと鋭い視線を向けた。
「でもまた俺と出掛けてるのが知られたらお嬢がうるさいと思うぞ?」 「……そしたらアプトノスのスケッチくらいには付き合ってやる」
ぶっきらぼうな物言いは照れているだけ。視線を合わせないのは恥ずかしがっているから。口元を固く結んでいるのは、ニヤけてしまいそうなのを我慢しているせい。 あちこちの村をモンスターの脅威から救ったとはいえ、彼もまだ子供だ。だがそんな子供に、こんなにも揺さぶられる。しかしまた同時に、揺さぶられていることを心地よくも感じる。不思議なものだ、出会った頃はまさかこんな風に思う様になるとは考えもしなかったのに。
「俺はいつでもバレていいと思ってるぞ?その方が悪い虫が付かない」
にっこりと笑いながら告げた言葉に、馬鹿じゃねェの、とナマエが呟いた。
End.
※MH4知らないけど読んだよ!という方へちょっと説明。 クエスト先のキャンプ地には、体力回復のためのベッドがあるのです。(笑) ※団長が何歳か分からないので、40オーバーということにしたよ! ※村クエクリアしても団長の細かい設定は分からなかったから、あちこちでっち上げだよ!
|