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「………はあ」

気がつくと町からは遠く離れ、ぽつぽつと住宅が点在する丘へ来ていた。眼下に広がる港と、そこそこ遅い時間なのにも関わらず煌々と灯る町の明かり。こんな遅くまで営業してるのか。火拳が喜んでそうだな、ふとそんなことが頭を過る。


───最悪だよい、てめェは。

冷静になった頭に、不死鳥の言葉が甦る。

傷つけた。不死鳥の気持ちを踏みにじった。あんな顔をするとは思ってなかった。

今までの罪悪感など比ではない、胸が押し潰されそうなほどの後悔の念が俺を襲う。あんな風に、言うつもりなどなかった。本気で思ってたわけじゃない。そりゃ、全く不満に思ってないのかと言われたら断言はできないが、だが俺は不死鳥がどれだけ俺に心を砕いてくれてたのかを知っている。それをすべて無下にするようなことをするつもりなどなかった。


頭に血が上り冷静じゃなかった───、いやそれも今更か。冷静じゃない時に俺がした失態はいつも取り返しがつかない。確かに最悪だ。あいつの言う通りだ。もう、どんな言い訳も肯定できない。


「このっ……」

足元に転がる石を拾い力任せに投げる。数秒後にトプンと水面に落ちる音がし、暗闇の向こうには川か池かがあるようだった。周りには誰も居らず町の明かりが届かない空間はぞっとするほど真っ暗で、しかし今の俺にはこのくらい一人な方が丁度良かった。

このまま俺はどうしたらいいのだろう。何もなかったような顔で船に戻ることなどできないし、どの面下げて不死鳥に会えばいいのかも分からない。ちゃんと謝るのが一番だろう、だが謝ったところでどうだと言うのか。俺のしたことが無かったことになるわけでもなければ、謝ったことで罪悪感から解放されるのは俺だけだろう。それは、不死鳥を今以上に傷つけることにはならないだろうか。


考えないのが吉なんて、そんなわけなかった。考えないで行動し待っていたのは、もっと最悪な結果だけだった。

座り込み、足元の草をぶちぶちと引きちぎる。何か手を動かしてるだけでも多少は気が紛れる気がする。

「……何週間か時間が戻らないかな」

無意識に呟かれた独り言は、最低な自分を象徴していた。ああ、もう。だからダメだと言うのに。草を引き抜くついでにたまたま触れた手頃な石を先程の池辺りを目掛けて放り投げた。


「痛え!」


誰もいないと思ってた空間から、投げた石がなにかに当たるガツンという音と悲鳴がした。あ、ヤベ。人がいたのか。暗い草むらを目を凝らして見つめると、そこからむくりと黒い影が起き上がるのが見える。

「……」

立ち上がったその影はやたらとデカく、ゆっくりとこちらへ近づいてくるたびに徐々にその輪郭が浮かび上がる。遠い町の明かりに照らされてその顔が露になった時、俺は絶句していた。


見上げないといけないほど遥か上に顔があり、その額には彼のトレードマークとも言えそうなアイマスク。ジャケットを脱ぎネクタイを緩めて多少ラフな格好になってはいるが、見紛うはずもない数週間前には俺も着ていたはずの白い制服。


「痛いよ、何してくれるんだ」

「……クザンさん」


なんで、この人がこんな所にいるんだ。





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あきゅろす。
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