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「俺はお前ェたちが産まれる前から海賊なんてやってるからなァ、そりゃ色んな別れを経験した。単なる顔見知りも含めりゃ、死んだ奴なんて両手でも足りないくらいだ。初めて仲間にした男が死んだ時、俺も奴の形見を手元に残した。2人目も3人目も、10人目になるまで残していた。そうしないとな、忘れてしまう気がしたんだよ。だけどな、ある時ふと気づいたんだ。形ある物に、もしかしたら意味はないんじゃねェか、と」

「……」

「死んだ仲間たちと俺はずっと共に航海してきた。苦楽を共にし、意見を通わせ、どうしても合わない時は喧嘩だってした。そういうあいつらとした様々なことが、今の俺を作っている。あいつらの中の誰一人欠けても、俺は俺ではなかっただろう、そう思う」

「…オヤジ」

「言ってる意味が分かるか、サッチ。つまり、俺自身があいつらが生きていた証だ。その俺の元に多くの息子が集い、俺の教えを吸収して成長する。死んだあいつらの考えや経験を得た俺が、それを次の世代に伝えてるんだ。サッチはあいつらを知らないが、でもそれはお前ェの中にも確かに生きている」

「……」

「そう思えてから、俺は形に残る物はいらないと思うようになった。だがな、それなのに、その10人分の形見は未だに捨てられねェんだ。もうそこに意味がないと思っているにも関わらず、な」


「………ええと、つまり、どういうこと?」

完全に首をかしげてしまった俺に、オヤジは一瞬キョトンとした後、大声で笑った。

「そうか、悪ィな、お前には難しかったか」

「なんとなくは分かったけどよ。でも、それがつまりマルコにどう関係してんのさ?」

むぅ、と眉を寄せて考えるが、どうにもピンと来ない。

考え込む俺にオヤジはにやりと笑った。


「つまり、今でも大事に持っている事と、今でも忘れられない事は関係ねェってことだ」





オヤジの部屋を出て、廊下を歩きながら俺はむむぅと考えていた。

『お前ェにもあるだろ?大して意味がないのに捨てられないものが』

そう言われて思い出したのが、自分の机の奥底にひっそりと仕舞ってある一通のラブレターだ。

幼少期、まだ海賊になるずっと前、初めて女の子から貰ったラブレターだった。

当時俺はその意味を正確には理解していなかったし、年齢的にも付き合う付き合わないなんていう話に発展することもなかったが、貰ってすごく嬉しかった記憶だけが今でも残っている。

その女の子のことはもう顔も声も、名前も覚えていない。

多分、近所に住んでたんだろうがそれすらうろ覚えだ。

無くなったら無くなったで、「あーそうか、無くしたかぁ」と思うだろうが、必死に探し回ったりはしない。

つまりはその程度なのだ。

なのに俺はそのラブレターを捨てることができない。


俺のそれと、オヤジの形見やマルコの短剣を同一レベルで見ていいのかは甚だ疑問だったが、俺の中では非常にしっくり来ていた。

俺らが勝手に大前提にしていたその思い違いを取っ払ってしまえば、実はそんな複雑な話じゃないことにすぐ気がつけた。


どうしてマルコがあんなにもナマエの異動を渋っていたのか。

どうして異動後にあんなにもイラついていたのか。

異常事態に真っ先に駆けつけたのは誰のためだったのか。


そうか、そうなのか。

なんだ、そうだったのか。

それならもう、簡単なことだ。

あとは、ちょっとだけ勇気を出せば確かなハッピーエンドが待っている。




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