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「ぶはっ」

堪えきれず俺は思わず噴き出した。事実がどうであるかはとりあえず置いといて、単純に面白かったのだ。

このご時世、公園に野宿って。しかも木の上って。

俺が笑いだしたのを見てマルコは一瞬目を見開くと、同じように頬を緩ませる。厳つい容姿の割りに笑うと可愛く見える気がして、昨日と随分違う印象に内心で少しだけ驚く。


「仕方ねェなあ、来い」

気がつくと俺はマルコの手を取り、部屋へと招き入れていた。

こいつはきっと嘘をついていない、のかもしれない。異世界云々の話は本当なのかも知れないし、ただ自分で作り出した架空の話を本気で信じ込んでいる痛いやつなだけなのかもしれない。

しかしどっちだったとしても、俺にとってマルコは昨日会ったばかりの知らないやつだ。友人どころか知り合いにすらなっていない、遠い遠い存在。そんな男を部屋に上げるなんてどうかしている。

だが、もっとちゃんと話をしてみたい気になった。このまま「はいさようなら」と別れるのは、なんだか惜しいと思ってしまったのだ。


棚から引っ張り出したタオルや着替えを押し付け、困惑顔のまま立ち竦むマルコを風呂場へと押し込んだ。

「とりあえず先に風呂入っとけ。出たら飯食わしてやるから」

「………」

マルコは何か言いたげにこちらを見ていたが、「風呂入らねェと飯食わせないし、話も聞かないからな」と半ば脅しのようなことを言うと大人しく入って行った。昨日のカレーを温め直していると、風呂場からは「うぉおっ!?」とか「んが!」という悲鳴と、色々なものを落とすガランガランという音がやたらと響いている。

もしかして風呂場の使い方が分からないのだろうか。そう思い、いつでも手助けできるよう風呂場前をウロウロしていたのだが、結局中から助けを求める声は聞こえてこなかった。





「あ、上がった……よい………」

疲労困憊、という表現がぴったりな顔でマルコが風呂場から出てきたのは、それから30分ほど経ってからだった。結局風呂にはちゃんと入れたのかどうなのか。助けを求める声は最後まで響いてこなかったけど、風呂に入る前以上に疲れてるように見えるのはどうしてなんだろう。

着替えにと出しておいた俺のシャツも、一応着てはいるがボタンを閉めることはできなかったらしい。タオルを抱えた腕越しにやたら鍛えられた腹筋が見えた。う、羨ましくなんかない!

「使ったタオルとかどうしたらいいんだよい」

「ああ、そこのカゴに適当に入れておいて」

カレーの入った鍋をぐるぐるとかき混ぜながら、マルコの問いに答える。

「え?どれだよい?」

「洗濯機の横にあるだろー?黒いやつ」

「せんたくき?」

「着替え置いてた棚の下にあったろ?それだよ……」

いつまでもカゴが見つけられないマルコに痺れを切らし、俺は一旦コンロから目を離し脱衣所を覗いた。ほら、そこにあるじゃないか。そう言おうと振り返り口を開きかけたまま、俺は硬直した。

カゴなんかよりももっと重要で、重大な物がそこにはあった。


「お前、それ……」

外では暗くてちゃんと確認できなかった、マルコのシャツの隙間から見えたある物───入れ墨だ。


最初何に驚いているのか分からないという表情をしていたマルコが自分の胸を見下ろし、突如思い至ったのか「ああ!」と声を上げる。

「うっかりしてた!これがあったじゃねェかよい!」

元々大きく寛げられていたシャツの前を更に大きく開き、入れ墨がしっかりと目に入るよう俺の前に出す。

「お前の体にもあるだろう。オヤジのマークが」


見間違えるはずもない。それは、俺の腰にある入れ墨と全く同じ物だった。





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