「ま、全治1週間ってとこだな」 治療を受けるナマエを囲むように、オヤジや他の連中が心配そうな顔で見つめる。 顔にぐるぐると巻かれた白い包帯は、ナマエの黒い瞳を完全に隠していた。
火柱の原因はエースの暴走だ。 エース本人は話したがらなかったが、近くにいた隊員が言うところによると、どうやら敵船長がオヤジを悪く言ったことが理由らしい。 負け惜しみの挑発に付き合うな、というナマエの助言も聞かずエースが一人飛びかかってしまった。 それに巻き添えを食ったのは、2番隊の新人だ。 エースの暴走に逃げ遅れ、炎に襲われそうになった所をナマエが庇ったのだが、自身が上手く炎を避けることができずに…というわけだ。 俺が現場に着いたとき、倒れたナマエとナマエの陰にいた無傷の隊員と、そしてエースが放心して立っていた。
結果、症状は半身に火傷と、熱風がナマエの眼を少しだけ焼いた。 失明だなんだと騒ぐほど重症ではないのだが、それでも1週間は包帯を取るな、というのが船医の診断だった。 「でもよ、完全に見えないんだろ?」 「完全ってわけでもない。光は見えるから、太陽を見ると瞼の裏が赤くなったりはする。っていうか一生見えないわけじゃないんだし、皆心配しすぎ」 「今だけだったとしても包帯取れるまで大変だろうが」 「それでも1週間程度だろ?まぁなんとかなるよ」 カラカラとナマエが笑った。 周りよりむしろ本人が落ち着いていることに、俺らは驚かされた。 1週間という期限付きであっても、見えないことをこうも簡単に受け入れられるものだろうか。 そこで俺は、部屋の隅に所在無さげに佇むエースが視界に入り「あぁ、」と気づく。 そうか、ナマエはエースが責任を感じ過ぎないようにしているのか。 「エース、いるんだろ?」 ナマエが首を動かさずまっすぐ前(と言っても今のナマエにとってはどこが前なのか分からないだけなのだが)を見たままエースを呼んだ。 ここにおいで、と手招きをする。 静かに、ナマエの手が届く範囲にエースが近づいた。 「ナマエ、俺、本当に…ごめん。忠告無視して…」 「うん」 「ナマエが庇ってくれなかったら、俺あいつのこと焼いちゃう所だった」 「そうだな」 「それから、怪我させて、ごめん…っ」 俯いて肩を震わせるエースに、ナマエがゆっくり立ち上がる。 その手が探るようにエースの肩に触れ、顔にたどり着き、そして頭を優しくぐりぐりと撫でた。 「それが分かったなら十分だ。もう二度と、同じ間違いはしないだろ?」 「あぁ、しない。絶対に」 「よし」 ポンポン、と頭を軽く叩いて、ナマエの手がエースから離れる。 張りつめていた空気が緩み、ようやく俺らはほっと息を付いた。
「でもよ、実際問題どうすんだ?」 そう口を開いたのはサッチだ。 「とりあえず1週間、ナマエは業務から外さなきゃなんねぇだろ?それは皆がカバーすれば問題ないけどよ、やられたのが目である以上、日常生活に支障が出るよな。さすがに一人で生活するのは無理だろ」 「俺が世話する!」 勢いよく挙手したのはエースだ。 俺はペットか、とナマエが苦笑いをこぼしていたが、エースは至極真面目だった。 「俺のせいで怪我しちまったんだし、俺が責任もって世話するべきだ!だから俺がっ」 「お前ェはダメだ、エース」 エースの言葉を遮り、今までずっと黙していたオヤジが口を開いた。 「お前はそれよりも早く隊長として一人前になることの方が先決だ。今度いつ敵が来るかなんてこっちからは選べねェんだぞ?同じ間違いをしたくないなら、やるべきことは一つだ」 「それは、…そうだけど」 「ナマエに関しては、マルコ。お前が責任を持て」 突如名前を呼ばれ、俺は驚いてオヤジを見る。 「1番隊で散々ナマエの世話になってたんだろ?恩返しできるいいチャンスじゃねェか」 何か含みがあるかのようににやりと笑われて、俺はオヤジには敵わないな、と内心ため息を溢した。
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