マルコの機嫌がどうであれ、今のエースをそのままに俺を1番隊へ戻すのは無理、というのがオヤジの結論だった。 つまりは俺は2番隊でエースのサポートのまま。 現状維持というわけだ。 マルコはその決定に不満そうだったが、オヤジが決定したことを蒸し返すわけにもいかず黙っていた。 ・ 大砲を撃ちながら近づいてくる一隻の海賊船。 うちほど大きくはないが、白ひげに喧嘩を売ろうっていうんだからまぁそれなりの規模なんだろう。 手配書で見た覚えのある顔も何人かいた。 甲板でその近づく船を眺めながら、俺は内心とてもありがたいと思っていた。 あの日、マルコの部屋で「1番隊に戻ってこい」と言われてから、俺はマルコとどんな顔をして話せば良いのか分からなくなってしまった。 隊に必要だと思ってくれてることは嬉しい。非常に嬉しい。 だがそういう言い方をされると、俺はまたありもしない可能性を期待してしまうのだ。 そんな風に少ない可能性に期待するだけ期待し続けて、それで何も生まれなかった二十年なのに。 こんな時喧嘩を売ってくれるのは願ったりか叶ったりだ。 命のやり取りは余計な事を考えずにいられるからいい。 「今回は2番隊を出す」 オヤジがそう指示を出す。 「2番隊の指揮はエース、お前が取れ。こっちには乗り込ませるなよ、上手く足止めしつつ叩け。間違わなければ2番隊だけで十分落とせる相手だ。隊の訓練はしてきてるんだろ?」 「おう!任せろオヤジ!」 腕を鳴らせてエースが不敵に笑った。 「他の隊は待機だ。俺が指示するまで、2番隊には手を貸すな」 「分かった」 「それから、ナマエ」 「ん?」 持ち場に付こうと歩き出した俺にオヤジが声をかける。 「エースを頼むぞ」 真剣な顔で見下ろすオヤジに、俺はしっかりと肯定の返事をした。 1対1の命の取り合いと比べて、隊を率いての実戦は色々と勝手が違う。 エースはとかく暴走しがちだ。 一つのことに集中すると途端に周りが見えなくなる。 また、自分の力が一隊員とどのくらい差があるのかをまだちゃんと把握していない。 エースに着いていける隊員はまだしも、問題は着いていけない隊員だ。 戦場で暴走した隊長に着いていけない隊員は、一番死に近い。 指をポキポキ鳴らして敵船を待ち構えるエースの隣に立つ。 「分かってると思うが、お前は隊長だからな。隊員のことは常に見ておけよ」 「ああ、分かってる」 「それから、今回は俺もあっちに乗り込むからよろしく」 あっち、と敵船を指差すと、エースがなんで?という視線を向けた。 「ナマエは見張り台から狙撃だろ?」 「今回は新生2番隊の初陣だからな。予想外の事態が起きた時のために、なるべく本隊と近い方が対処しやすい。俺も別に、接近戦がいけないわけじゃないし」 そう言ってベルトに指した銃を見せると、エースがへぇ、と声を上げた。 「初めて見た。ナマエはライフル一筋なんだとばっかり」 「うちは接近馬鹿が多いからなぁ、これの出番が無くて錆び付いてたよ」 あはは、声をあげて笑うとエースが接近馬鹿って誰のことだ?と首をかしげた。 |