「……なんてことあるかあー！！」
寝静まり灯りを落とした甲板で、海に向かって叫ぶ。
あああ腹立つ……！！すげぇむかつく……！！誰だ育児は忍耐だなんて言ったやつ！忍耐なんてもんじゃねェよこれ！ハラワタ煮えくり返るってこういうこと言うんじゃねえのか！
「はあ、はあ」
しばらくじたばた暴れて叫んだらちょっとスッキリした。不寝番に戻ろうと、マストを登り見張り台へと上がる。
「う、寒」
秋島の海域に入っているから、日が落ちるとちょっと寒いな。毛布とホットコーヒー準備しといて良かった。
そういえばマルコ寝相悪いけどちゃんと腹の上に布団かけてるかな。良くベッドから落ちてるし、この海域だとすぐ風邪引いちゃいそうだ。ニューゲート、ちゃんと途中で起きて見ててくれてるといいんだけど。
ランプに火を灯し、手元のノートを照らす。新しいページを開きそこに『粉ミルクとオムツは不要』と書き加えた。
マルコに関して気づいたことを書き記したり新聞の切り抜きを貼ったりしているこのノートも、ほんの数日で結構埋まってしまった。数ページ前を見直してみるとそこには『ピーマンは嫌い』と書かれてあり、「そういえば」と思い出す。
ピーマンのいい調理法が何日か前の育児コーナーに載ってた気がする。ぱらぱらとページを戻り、スクラップしてある目的の記事を探した。
「細かくして好物と混ぜる……なるほど。火をしっかり通すと苦味が薄まって食べやすい。ふむふむ。繊維に対し垂直に切ると苦味が飛ぶ……マジか」
知らないだけで色々工夫できるんだな。ニューゲートは食べ物の好き嫌いがないから、今まで全く気にしてこなかった。
マルコはとにかく栄養が足りていない。小さすぎだし痩せすぎだし、今までちゃんと栄養を取れてなかったのも含めてバランス良く食べさせたい。ピーマンだけじゃなく、きっと他にも食べられない野菜は出てくるだろう。そういう時のために少しでも俺自身勉強しておかなくては。
───反対だって言いながら、そういうところはちゃんとしてるんだなァ。
以前ニューゲートに言われた言葉が脳裏に甦った。
………いやいや、別にマルコのためじゃないし。俺が、料理上手くなりたいだけだし。マルコが年相応に成長すれば船の仕事もできるようになるから、巡り巡って俺が楽できるって話なだけだし。
「………」
あんな可愛くないガキ、別にどうでもいいし。
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