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温めすぎたスープを子供は綺麗に平らげた。よほど腹が減っていたのか、ふうふう言いながらもそれはもうすごい勢いで食べていた。

あっという間にあの酷い衰弱から回復した子供は、今は甲板でニューゲートによじ登りながらキャアキャアはしゃいでいる。

「………」

顔を出し始めた月越しにそれをぼんやり見つめながら、俺は顔をムスッと歪め不機嫌丸出していた。


俺はあんな小さな子供を海賊船に乗せることに未だ納得していない。

基本的にニューゲートの決定には反対しないつもりでいた。乗船するやつが女であろうが魚人であろうが天竜人……は、ちょっと嫌だけど、でも基本的にはばっち来いなつもりでいた。ニューゲートが認めた奴なら。

しかし、これは完全想定外だ。まさかそこまで年齢問わないとは思わないじゃないか。


「不服そうだな」

「まあな」

ガキを一旦下ろし、ニューゲートが近づく。

「海賊船に子供だなんて、危険すぎる。俺は絶対反対だ」

「お前、自分がもっと幼い時から海賊船に乗っていることを忘れたのか?」

「ぐっ」

それを言われるとちょっと弱い。

でもあれは船員が大勢いる大きな船だったし、足手まといが一人いるくらい全然問題ないくらい屈強な男たちの集まりだったし。

ゴニョゴニョと言い訳を並べる俺にニューゲートはフッと笑みを浮かべると、「ログが溜まったから船を出すぞ」と言ってその場を離れた。


今うちはニューゲートと俺しかいないんだ。しかもニューゲートはともかく、お世辞にもそこまで強いとは言えない俺は自分の身を守ることで精一杯。ニューゲートは確かに強いけど、なんでもかんでも許容できるほど万能じゃない。こんな状況で子供を乗せるなんて……。


顔を上げると、少し離れた位置から子供がこっちを見つめていた。

「用があるならそっちから来い」と子供相手でなければ言えるのに、あの年齢の子供相手だとどのくらいのトーンで話をすればいいのか分からない。子供に合わせて優しい口調で話しかける自分なんて想像するだけで鳥肌が立つ。

はあ、と一つため息をつきつつ近づき、そいつを見下ろした。

「おい」

「………」

甲板に座り込んだままその子供はぷいっと顔を背けた。む、なんか反抗的だな。

「無視してんじゃねェ、お前だガキ」

「ガキじゃないよい!」

「ガキ、お前ェの名前はなんていう」

「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だってさっきオヤジが言ってたよい!お前は礼儀知らずだよい!!」

「…………」


俺は表面上冷静を装っていたが、内心めちゃくちゃイラついていた。それはもう、青筋立ってるかもなというくらいこめかみがピキピキ音を立てていた。

だから子供は嫌いなんだ。過去町で目にした子供はだいたい皆こんな感じだった。ギャアギャア煩くて口ばかり達者ですぐ泣くし生意気だしわがままだし、年上を敬おうって気持ちが全く無い。随分とニューゲートに対する態度と俺へのそれに差があるけど、なんだこれ。

っていうかオヤジ?オヤジって誰だ。………ニューゲートか。この野郎もうニューゲートをオヤジ呼びしてやがる。


強気な態度に出ていた子供は背けていた顔を戻し俺の顔を見ると、急にビクッと体を震わせじわじわと目元に涙を溜め始めた。直後甲板に響き渡る、大きな泣き声。

「えっ、えっ」

なぜ泣き始めたのか分からず俺は慌てた。俺、何かした?してないよな!?殴りてェとは思ったけど殴ってないはず!じゃあなんで泣くの!?っていうか煩え!

「ちょ、どうし」

最後まで言い切ることなく、ガン!と頭に重い衝撃。弾みで俺は甲板に倒れ込んだ。

「おい、ナマエ。てめェ何マルコいじめてやがる」

「いじめてねえ!俺何もしてないのに急に泣き出したんだよ!」

「…………」

「本当だってば!」


ガキ改めマルコは現れたオヤジの足にしがみつき、ぐすぐすと鼻をすする。

「マルコ、どうした?ナマエに何かされたか」
何もしてないってのに。

ニューゲートに優しく背中をポンポンと軽く叩かれ、落ち着いたマルコはズボンに顔を埋めたままポツリと呟いた。


「……顔怖いよい」

「………」


ニューゲートが「ああ…納得……」という顔で俺を見た。酷い。

俺だって自分の目付きの悪さは自覚してる。まさか子供に泣かれるほどだとは思ってなかったけど。全く、顔が怖いくらいで大泣きだなんて、本当に大丈夫なんだろうか。

「………はあー。しょうがねェなあ」

ガシガシと頭を掻きながら、俺はマルコと視線を合わせるようにしゃがみ込む。

「顔が怖いのは慣れろ。俺にはどうしようもねえ。生まれつきこういう顔だ」

「………」

「……で。俺はナマエだ」

「マ、マルコ、だよい」


お互い笑顔もなくにこやかな雰囲気もなく握手するでもなく、「よろしく」さえも言わない。睨み合ったままの、名前を言い合うだけの簡潔な挨拶。


これから家族になろうというにはあまりに酷い初対面だった。





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