キッチンへ移動し子供を毛布に包み、椅子を並べて作った簡易ベッドに乗せた。火にかけたスープをぐるぐるかき混ぜつつ、俺は背後のニューゲートに話しかける。 「島唯一の生き残りかー。海賊に親兄弟を殺されたってところかな。気の毒だよな。こんなに幼いのに、これから大変だ」 「……ああ」
過去、幾度となくこういう島や町を目にしてきた。略奪目的で暴れる海賊は例外なく住人を皆殺しにする。 が、たまに。ごくたまにこんな風に生き残る者がいる。そのほとんどの場合生き残るのは、こういう幼くて自分一人の力では生きていけない子供だった。 「親が我が子だけでも生き延びて欲しい、と必死に守るのさ」と言ってたのは今は亡き船長だったか。しかし、生き残ったところでそれが正解であるかは疑問だな、と俺は思う。
大人の保護を受けることもできず、一人で生きていくこともできない子供は、多くの場合そのまま堅気の世界からは外れていく。仕方ないことだ、空腹に堪えられなくなれば犯罪を犯すことなど躊躇ないだろうから。そんな風に自分の子供が人の道から外れていくことを、死に行く親は理解してたんだろうか。
戦争孤児を保護してくれる場所など基本的には無い。海軍もそれに関して尽力してるという話も聞くが、現実そういう施設ができたなんて事実は聞いたことがなかった。 個人で孤児を世話しているという人にもたまに会うがそれこそ本当に数える程度だし、とても全世界の孤児全員をカバーできるほどの規模ではない。あくまでも個人でできるレベルだ。
運が良ければそういう親切な誰かに拾ってもらえることもあるだろう。この子供は生き残ったという意味では運が良く、しかし発見者が海賊であったという意味では運が悪い。
さて、となるとどうするか。 次の島の海軍支部前かどこかの家の前にこの子供を置いてくるくらいしか、俺らにできることはないように思う。支部がなければなるべく親切そうで裕福な家を選ぼうとは思うが、それでも突然家の前に置き去りにされた知らない子供を育ててくれる家など無いに等しい。 せっかく助かった命だけど、まだ本当の意味で助かったわけではないのかもしれない。
毛布一枚では寒いのか微かに震える子供を見て、ニューゲートが自分の上着を脱いで毛布の上からかけた。 「………」 大事そうに丁寧に腕の中に抱くその様子を見ている内、俺はふとある可能性が頭を過った。
家族が欲しい。 ニューゲートはそう言っていた。血の繋がり以上の何かで結ばれた、そんな家族を作りたい、と。年齢性別関係なく、………。 「……まさかと思うがニューゲート」
───お前、そいつを船に乗せるつもりじゃないよな。
無言のままニューゲートは一度その子供に視線を落とし、そして俺を真っ直ぐ見た。今、俺の頭の中にある憶測が、正解であると言うかのように。
「そのまさかだ」
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