「万が一の時はお前のことを頼むって言われていたんだ」
海上でバラバラになった時はここで合流しよう。そう仲間内で決めていた無人島へ辿り着いた後、ようやく冷静に話ができるようになった俺にニューゲートは言った。 「船長はお前のことを特に気にかけていたからな。……色々と心配だったんだろうさ」 「………」 「あの状況でお前が無謀な行動を取るだろうことも分かっていた。だから万が一の時は絶対妙な行動を取らせるな、と。何がなんでも逃がせと」 「……俺は、仲間として死ぬことも許されてなかったのか」 ニューゲートが焚き火に数本枝を放り込んだ。目の前でパチパチと爆ぜる枝をぼんやりと眺めながら、俺はポツリと呟く。
一人前になったと思っていた。初陣はとっくの昔に済ませていたし、賞金首ではなかったけど戦闘でそこそこな功績も上げていた。任される仕事だって年々増えてきていた。 周りは全員俺より一回りも二回りも年上のベテランばかりだったから、成人した今でも俺は子供扱いされてばかりだった。それでも一人の海賊として認めてもらえていると思っていたのだ。 最後まで、俺は守られるだけの存在だったなんて。
「そうじゃない、船長は、」 「もう、いい」 ニューゲートの言葉を遮り、俺は背を向けゴロリと横になった。背中に感じる視線を無視し目を閉じ無理矢理眠りにつく。背後でニューゲートが静かにため息をついたのが聞こえたが俺はそれに気づかない振りをした。
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何日待っても、仲間は誰一人この無人島には辿り着いて来ないままだった。 「………」 水平線を眺めながら、現れるはずもない船を待つ。無人島の奥に広がる森から色々と食べ物を採取してきたニューゲートが果物を差し出したが、俺は首を横に振って「いらない」と答えた。 「だがお前、ずっと何も食ってないじゃないか」 「……腹減ってないから、いい」 「………」
俺はニューゲートが口を開くのが怖かった。俺よりもはるかに様々な経験があるニューゲートは、今の状況を正しく理解している。 きっと彼はもう誰もここに来ないことを知っている。知っていて、俺の気持ちの整理がつくのを待ってくれている。 俺らの仲間は俺とニューゲートを残し、あの時皆船と一緒に沈んでしまったことは明確だ。それでも俺はまだ諦められなかった。目の前にこんなにもハッキリと存在する現実から、必死に目を反らしていた。
彼が「もう待つのは止めよう」と言い出したその瞬間、俺はあの海賊団の一員ではなくなってしまう。俺ら以外誰も生き残って無かったとしても、船が海の藻屑となったんだとしても、まだ俺はあの船の一員でいたかった。
帰る場所が無くなるって、こんな感じなのか。 胸の奥にポッカリと穴が開いて足元が覚束ない。どこにも行けない。待っていてくれる仲間もいない。俺がイタズラしてもあの怒鳴り声を聞けることはないし、甲板掃除を頑張っても誉めて撫でてくれる温もりももう二度と感じることができない。 ……ひとりぼっちだ。
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