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06




ナマエたちと別れ呼ばれるまま隊長室へ赴き、俺が隊長から切り出された話は思いも寄らないことだった。


「マルコ、お前を次の一番隊隊長にしようと思うんだが」

「……え」


肩をぐるぐると回しながら、隊長が「ふー…」と大きく息を吐く。

「俺も年だからなァ。船旅もキツくなってきたし、陸でゆっくりしたいところなんだ。で、後任をお前にしたいと思ってる。オヤジや他の隊長連中にももう話をして異論はないってことになってるし、マルコにその気があるなら、の話だが」

「あ、あるよい!」

「そうか。じゃあ、明日から色々教えていくからな。当分は忙しいと思うが我慢してくれ」


話が終わり隊長室を出たが、俺はしばらくボーッと放心していた。つい今し方隊長から告げられた話が何度も頭の中で繰り返され、今さらじわじわと実感が沸く。

「やっ…たよい!」

誰もいない通路で、俺は一人静かにガッツポーズを決めた。


隊長はここにいる者にとって憧れのポジションだ。誰しもそれを目指して、ああなりたいと思っている。だが同時に誰でもなれるわけでもないことも理解していた。だから、まだ正式になったわけではないとは言え、自分にその白羽の矢が当たったことが素直に嬉しかった。


ナマエに話したい。

上がったテンションが落ち着いたら、次の瞬間思い出したのはナマエのことだった。

ナマエと一緒に喜びたい。きっと心から祝福してくれる。

何より一番にナマエに伝えたい。ナマエだったらきっとこう言うんだ。





「マジか!マルコやったな!」


部屋へ戻りいの一番に伝えると、想像通りの言葉がそのままナマエの口から出て、俺はつい笑いそうになってしまった。彼は想像以上に喜んでくれた。持っていた水差しを落とし入っていた中身が床に零れたが、気にする様子もなく俺に抱きつく。

ドッキリじゃないよな!すごいな!!と大騒ぎし、その後テンションが上がりすぎたのか少し息切れし咳き込み始めてしまった。

「まだ本調子じゃないのにはしゃぐなよい」

「今はしゃがないでいつはしゃぐんだ!」

むせながらも全力で返され、俺はなんだかくすぐったい気持ちで満たされた。喜んでくれるだろうことは分かっていたがナマエの喜び方は自分の想像以上で、自分のことのように祝福してくれているのが照れ臭くて嬉しい。


「でも、まだなったわけじゃないんだからよい」

「もうなったようなもんだろー?良かったなあ。みんなでお祝いしなきゃな!あ、お祝いは隊長になった時の方がいいかなあ。んーでも前祝いとかもありだよなあ」

すでにお祝いのことまで考えているのか、ナマエがさっそく計画を立て始める。まだ話が出ただけだというだけなのに本当に気が早い。

「あ、でも隊長は船下りちゃうってことなんだよな。隊長がいなくなるのは残念だな。ロイも下りちゃったばかりだし」

ふと顔を上げたナマエが寂しそうに少し眉を下げた。

「衰えを感じてるんだと。古傷が痛むらしいし、ちょっと船旅には耐えられそうにないって言ってたよい」

「昔ひどい大怪我したんだっけ?」

「らしいよい。騙し騙しやってきたけどそろそろ限界って」

「そうか……。俺らから見たらどこか衰えてるかサッパリわかんないけどなあ。残念だよな………あっ、サッチたち呼んでこなきゃ!皆にも言わないと!」

バタバタと慌ただしくナマエは部屋を出て行った。


そんなに慌てなくてもいいのによい。

胸の中がポカポカと暖かくなり、俺は自然と緩む口元を手で隠した。





サッチたちを呼びに食堂へ歩きながら、俺はうっかりスキップしていたことに気づき慌てて歩みを止めた。さすがにちょっとテンション高すぎだ。落ち着け俺。深呼吸して一旦冷静になろうと努めるがそれでも顔が緩むのを止められない。


嬉しかった。

マルコが一番隊の隊長になることも。

そしてそれを心から嬉しいと思えたことも。


ほんの少し前の俺であれば、こんな風になんのひっかかりもなく「おめでとう」と言うことはできなかったと思う。マルコが隊長に選ばれたことでまた距離が遠くなり、嫉妬して妙な隔たりを感じたりして、劣等感の塊みたいになって関係がギスギスしたかもしれない。


良かった。マルコが隊長になることになって良かった。

おめでとうという言葉を、嘘も無理もなく伝えられて良かった。

心からそう思えて本当に良かった。

サッチたちを呼びに行く道すがら、俺は少し涙ぐんでいた。





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あきゅろす。
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