或る意味勇者で、ただの人間
そういえば最近、兄が出来た。
よくある話で、単純に母さんの再婚相手の息子が晴れて僕のお義兄さんになったわけですが。
てらイケメンだった。
義父が超絶美形だった時点でまさかとは思ったけどそのまさかだったとは。
こんな普通顔の僕がなんかがあの人の弟を名乗っていいのかと。
まあそもそも僕がそんな繊細な神経を持ち合わせているわけもないのだが。
でも僕はそんな自分が大好き。
いちいち悩んだりしないから楽だし。
僕のことはさて置き、どうやらお兄さんはある学園で生徒会長をしているらしい。
ご苦労なこった。
僕も中学時に何故か生徒会に入っていたことがあるが、クソめんどかった。
僕は下っ端だったから仕事しなくても差して怒られなかったけど、生徒会長となれば話は変わってくるだろう。
第一、高校だし、超金持ち学校だし。
しかし母さんもすっげえ玉の輿ゲットしてやがんの。
どこであんな素敵な人見つけて来たんだか。
超良い人だし。
優しいし、格好いいし。
と、話が逸れたがお兄さんの通ってる学園てのがまた厄介なもんで、どうも、男子校らしい。
もっと言えば、初等部からある学園らしい。
だから何だと言われればそうなのだが、何ともまあ、そんな典型的なお坊ちゃま学校があったことに吃驚だ。
再婚に伴って引っ越した先からは意外と近い所にあった。
とは言え、僕には関係ない……と言いたいところだったが、現在通ってる高校は家からの距離を最優先事項として選出した学校であるため、正直、遠くなってしまい困っている。
うん。つーかそれどころじゃないみたい。
遠くなってしまったものの、仕方ないので電車を乗り継いで登校した。
送っていこうか、と言われたけどあんな高級車で登校したらどんな事になるか。
「よお。久し振りに来たかと思えばいつもに増して重役出勤だな」
「うるせ。色々あんだよ」
「ふうん?」
ニヤニヤと笑っている友人Aの通称ミキ。
今んとこ一番仲の良い奴。
個人的にコイツは僕と同類なんじゃないかと思っている。顔はミキの方が何倍もいいけど。
「はー。相変わらずかったりぃな」
「それも久し振り。お前の口癖」
「は?」
「お前は口を開けば、“かったりぃ”“めんどくせー”“やる気でねー”のどれかだよな。つーかお前がやる気出してんの見たことないんだけど」
「あー…まあ、たっまーーーーにありますよ」
「……その分だとホントに少ないんだな」
だって面倒臭くないことなんて滅多にないし。
大体俺がやる気出そうが出さなかろうが何も変わらないだろう。
だったらよくね。別に。
結局、授業なんかもやる気がある訳がなく、ダラダラと聞き流した。
「遊んでこーぜ!」
学校が終わって遊びに誘ってくるミキ。
「悪りぃ。今日は行けねえわ」
「何かあんの?」
「いや、引っ越したんだよ。うち」
「……はっ!?」
聞かれて隠すことでもないためカミングアウト(?)すると、ミキは露骨に驚いた。
いや、そんなに驚かれるとは思わなんだ。
「カホが再婚したんだ」
「再婚!?」
カホっつーのは母親。
小さいころからこの呼び方で躾られたため母親のことは名前よびだ。
「あ、そーそー。俺に超美形の兄貴が出来たんだ」
「……なんだと?」
ミキが睨んでくる。
なんだなんだ。
何、その反応。
何で怒ってんの?訳わかんねえし。
「義父も超格好いいの。でも――家からこの学校遠いのは考えもんだな」
「おいおい。学校遠いからって転校したりしねぇだろうな?」
「そんなもっとメンドイことするわけないじゃん」
「お前の場合その内マジでやりそうで怖ぇんだよな」
失礼な。
お前は俺を一体何だと思っているんだ。
「つーわけだから。じゃあな」
「ちょ、おいっ」
ミキが何か叫んでいたのは聞こえたが、僕は振り返らない主義だから。
まあこの場合は都合いいこと言ってるだけだけど。
朝来た時と同じように電車に揺られて帰った。あー気持ち悪い。電車通の人マジ尊敬。
ミキにはああ言ったけどやっぱ転校しようかな。
「しーちゃんお願い!高貴くんのとこに転校して!!?」
「いいよ」
「ほんと!?やったあ!!」
喜ぶカホ。うーん、今日も若々しいなこのオバサンは。
言っとくけどこれ言ったら殺されるから気をつけてね。
しかしまあこれであんな思いしなくていいと思うと少し嬉しい。つってもあんな金持ち学校行きたい訳ではないけれど。毎日電車に乗るよりはマシ。
「よかったぁ。でも何でおっけーしてくれたの?こないだは嫌だって言ってたのに」
「ボク電車むり」
「あらそう。そうねー、しーちゃんインドア派だもんね。て言うかもはや引きこもり?」
「そこまでひどくないよカホ」
「まあ何にせよよかったわー。ほら、うちお金持ちになっちゃったじゃない?だからしーちゃん狙われる可能性があるのよ」
「へー。まあその時は見殺しにしてくれていいから」
「……しーちゃん?」
「ゴメンナサイうそつきました、助けてください」
僕無言の圧力かけられるの苦手なんだよねー。特にこのオバサンは。
高夜さんもこの年齢詐欺のどこが良かったんだか。
「じゃあしーちゃん明日から高貴くんトコに行ってね」
「明日?」
「うん。もう手続きしといたから」
「え。何、まさか僕に拒否権はなかった系?」
「いえす!」
何がいえす!だ、ババア。
まあこの際別にいいけど。このオバサン典型的なB型だし。……僕もだけど。
カホほどではないと思いたい。
「あー……編入試験とかは受けなくていいの?」
「受けたい?」
「全く」
「そうだと思った」
「いいの?」
「いいわよ、別に。ほら、しーちゃんって天才型じゃない?だから大丈夫だと思うのよね」
天才型ってどこが。普通に頭なんか良くないけど。
何を言っているんだこのオバさんは。
お前の息子にそんな才能あるわけなかろう。
「あ!高貴くん帰ってきた!!おかえり、今日は早かったわね」
「ただいま帰りました。今日は仕事もなかったので」
「それでね、今しーちゃんに編入の件オッケーしてもらったの。明日からよろしくね?」
「はい。わかりました」
お兄さんがこちらを見る。今日もイケメン絶好調だねー。
羨ましいとは思わないけど。
「よろしくお願いしまーす」
「ああ」
「あら?高夜さんも帰ってきたみたい!」
「おかえりなさーい」
「みんなただいま。どうしたの?」
「しーちゃんがオッケイしてくれましたー!!」
「本当かい?良かったー。もう全部準備してあるから心配しなくていいからね」
「…………」
「ちなみに栞くんはSクラスだから」
「Sクラス?」
あまり聞き慣れない言葉を疑問に思って聞き返すとにっこりと素敵な笑顔で微笑まれた。
え?何なになに。なんでそんなにかっこよく微笑むんですか。
「一番お金持ちで頭が良いクラスだよ」
「へー」
「……それだけ?」
「?」
「高夜さん。しーちゃんはその程度じゃ興味を持たないわよ」
「うーん。中々手強い相手だね」
あーねむ。みんな言ってること意味分かんないしもう寝よ。寝よ。
今日早かったし、明日起きれるかな。
……まだ7時だけど。
――毎日詰まらな過ぎて、詰まらない。
10.3.4
******
義兄×弟
前置きが長くなってしまった。
続きます.
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