ある意味勇者で、ただの人間-2




「おはようございます、お兄さん」
「おはよう」


朝目が覚めると目の前にはお兄さんがいた。
……起こしてくれた様だった。今何時だろう。


「今何時ですか?」
「もう8時だ。起きないと遅刻するぞ」
「はい。起こしてくれてありがとうございました」


のそのそとベッドから起き上がると、顔を洗いに洗面所へ向かった。
そして何故か(?)準備されていた制服一式。サイズもピッタリ。
これはあれか、あれなのか。腰のラインとかを見ただけでスリーサイズも分かってしまうというあれなのか。

終わって時計を見ると20分。


「準備終わりました。もう出発できます」
「急いで食べれば間に合うぞ」
「大丈夫です」


そう言うとお兄さんは微かに右眉を上げた。本当にほんの少しだったけど。
しかし「そうか」とだけ言うと玄関へと向かった。
外には車が準備されていた。


「栞」
「はい」
「学校に着いたら、担任に会いに職員室へ行け。俺は仕事があって着いていけないが」
「はい、分かりました」


生徒会の仕事があったのにこんなギリギリで大丈夫だったのだろうか。
僕を待っていてくれた所為なのだけれど。
てか今初めて名前呼ばれた気がする。ちょい感動。








「本郷 栞(ホンゴウ シオリ)です。担任の先生はどなたでしょうか」
「お、来たな。こっちだ」


声がしたの方へ行くと何やらイケメンがいた。
僕の周りは何やら美形が多いな。
しかしこの担任……やたらチャラい。つーかなんで白スーツ着てんの?


「……ふーん。何だ、普通だな」
「まあ」
「まあ俺に迷惑かけるなよ」
「はあ」
「お前、あの本郷の義理の弟なんだってな」
「へえ」
「何だよへえって」


小声で聞いてきたかと思えば担任は可笑しそうに笑った。
あ、何か担任の警戒オーラが消えた気がする。
僕そんな警戒されるほど怪しいか?


「調子こいた感じもないし、お前面白いな。あの本郷家の息子になれたからって調子乗ってるだろうと思ったんだがなあ」
「元々、そこまで貧乏でもありませんでしたし、お金に執着も持ってませんでしたから」
「そうか」
「て言うかもうそろそろ9時ですけどいいんですか?」
「あ、やべっ。行くぞ、栞」
「はーい」
「俺は本生 馨(ホジョウ カオル)だ。お前になら馨と呼ばせてやってもいいぜ」
「あー……別にいいです」
「呼べよ」


結局命令系なのかよ。
てか何そのかなり上から目線。まあいいけど。


「へいへい。かおるセンセ」
「よし」


満足そうに笑うと歩調を少し早くする担任。
え、チャラ男に見せかけて純情派だったの?
ギャップにズキューン狙ってんの?
残念だけど僕全然ときめかねえ。イケメンだとは思うけど。


「ここだ。ほら、入れ」


背中を押されるままに教室に入ると大量の視線が僕に集中する。
うげえ。僕こういうの超嫌いなのに。


「自己紹介しろ」
「この度編入して来ました本郷 栞です」
「はいはーい」
「何だ、薬袋」
「本郷ってことは会長の親戚か何かですかー?」
「あー「違います」……おい?」
「ただ名字が同じだけで、全く何の関係もありません」
「そっかー。つまんないのー」


担任が一体どういうことだよと言ったような目で僕を見てくる。
僕はそれに答えずにっこりと微笑んでおく。担任はひとつ溜息を吐いただけで何も言って来なかった。会ったばっかりなのに僕のことよく分かってるぅ。


「お前の席は今のバカの隣だ」
「ちょっとー!バカじゃねえし!!」


仲良いなこいつ等。
しかし薬袋と呼ばれた奴……確かにちょいバカっぽい。
ミキに雰囲気が似ている。


「よろしくねー!俺は薬袋 翼」
「……よろしく?」
「その間と、疑問形は何?」
「……別に」


不思議そうに笑う薬袋に、「お前と仲良くしても僕は大丈夫なのか」なんていくら僕でも聞けるはずもなく。
僕は何も言うことなく席に着いた。


「栞って呼んでいい?」
「……どーぞ」
「栞はさー。何でこんな急にここに転校してきたの?」
「……何、そんな興味ある?」
「まあね!何でかなって」
「別に、ちょっと予想外の事が起こっただけ」
「へー……」
「こらそこ!俺様が話してるってのに何喋ってんだ!」
「ごめんね馨ちゃーん」
「誰が馨ちゃんだ!」


ホントに仲良いな……。羨ましいとかいう感情は全くもって浮かんでこないけど。
うーん。僕ここでやっていけんのかな。


「ねー、栞ー」
「何」
「栞ってこのガッコの事どんくらい知ってる?」
「え……知っとかないと不味い事でもあんの?」


担任が教室を出て行った後、話しかけて来た薬袋に、正直に言うと薬袋は一瞬顔を歪めた。
あー……何かすっごく嫌な予感。


「実はさ……ここ、ホモが多いんだ」
何その爆弾発言。
聞きたくなかった。て言うか聞かなくても別に全然良かったよ。
うん。聞かなくても問題はなかった……はず。


「それとさ、顔の良い人気者には親衛隊っていうのがあって、親衛隊がない奴が人気者に近付くと制裁を下される」
「制裁?」
「ああ。陰湿なイジメ、酷いとリンチ、強姦、輪姦とか、」
「……あんたは?」
「翼って呼んでよ」
「いいから。お前にはあるのか、親衛隊」
「…………ある」


通りで。やけに周りからの視線が痛いと思った。
最初は品定めをするようだった視線が薬袋と口きいた途端キツイものへと変わったのだ。
多分薬袋もそれが分かっていて僕に話しかけたのだろうから最悪だな、こいつ。


「あぁそう。もう僕に話し掛けて来ないでね」
「酷!!」
「何を今更。どうせもう慣れたんでしょ?」
「…………どういう意味?」


薬袋があからさまに驚いた顔をしておきながらまだしらばっくれようとしているのをみて笑いがこみあげてきた。
ああ、可愛いなあ。


「べっつにー……あ。僕まだ教科書貰ってないや」「あ……じゃあ俺と一緒に見よう」
「ありがとう」


動揺しながらも普通に対応しようとする薬袋は面白かった。
何と言うか、ここの悪習の影響が見えた気がする。






「栞ー!飯食い行こうぜ!」
「あれ、僕言いませんでしたっけ。仲良くする気はないって」
「……俺がそんなに嫌?」
「ええ。面倒くさそうですし」


僕の敬語は線引き。拒絶の証拠。
薬袋もそれを感じ取ったのか、僕の言葉に傷ついたのか、悲しそうな表情をした。
おかしいな。僕の予想ではこんなに食い付いて来るはずじゃなかったのに。


「……どうしても俺と一緒に居たくない?」
「まあ。……貴方がどうしてもと言うなら考えてあげないこともないですけどね」
「……俺は、どうしてもお前と一緒に居たい」
「土下座して頼んだらいいですよ。そしたら一緒に居てあげます」
「……土下座?」
「はい」


自分で言っといて何だが何様のつもりだ、僕は。
こりゃ下手したら全校生徒敵に回したな……。と言うか今更色々と手遅れな気もするし、そこまでしなくても一緒に居るくらいしてあげるのに。
つーか若干弱々しくなってね?薬袋。


「…………」
「……ふは。ごめん、冗談だよ。そんなことさせるわけないじゃん」
「冗談……?」
「そう、冗談。大丈夫。土下座なんてしなくてもオトモダチにくらいなってあげるって」
「……ありがとう」
「どういたしまして。さあ、昼飯を食べに行こうか。案内して、翼?」
「……ああ!」


何、その今日一番の笑顔。
まだまだ子供だなぁ、翼くんは。友達少ない奴は1人増えただけで凄く喜ぶからな。
僕なんか前のガッコでミキと2,3人くらいしか居なかったってのに。
友達増えてもそんなに嬉しいわけでもない僕ってなんなんだろう。






食堂への途中。何やらキャーキャーと女の子にしては低い、黄色と表現するよりは黄土色と言った方がいいみたいな悲鳴が聞こえてきた。
一体全体何事だ。


「あ。会長だ」
「会長?」
「そ。本郷 高貴(ホンゴウ コウキ)生徒会長様。容姿端麗頭脳明晰運動抜群。本当会長様々だよ」
「ふぅん……げ」


目ぇ会っちゃった。やっべ、お兄さんの親衛隊に殺されかねない。
お兄さんには悪いけど逃げちゃおーっと。


「走って。今日は購買にしよう?」
「あ!ちょ、栞?」


僕が翼の腕を掴んで逃げようとした瞬間ちらりと見たお兄さんの表情。
あれは家に帰ったら謝んなきゃなー。
お兄さんすっごい傷ついた顔してた。
――ああもう。ここの人間はみんなそうなんだろうか。
翼といい、お兄さんといい。




非常識が常識に、塗り替えられて行く――。





10.03.13


*********
実はドSな弟。
いや、アレはSなのか?
…少し長くなりそうな予感がする話です。





戻る



2/5ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!