see you again



時期外れの転入生。
彼の見た目は明らか変装なオタクルックなのに、学園の人気者たちを短期間であっという間に虜にした。
それでも、僕にとってはどうでもいいことで、関係なかった。
例え、僕が生徒会長親衛隊隊長だったとしても。
会長がセフレを全部切って、転入生一筋になったとしても。











彼は泣いていた。
震えて、怯えて、会長に縋りついている。
強姦されかけたのだ。

僕の知る限りでは、確か会長たちのチームと対立している有名なチームに属していたはず。あれ、彼自身も強いという話だったはずなのにな。
そんな彼が、無様にもやられかけた。
勝手に予想させてもらうと副会長のところの親衛隊が隊長の言うことも聞かずに勝手に不意打ちで行動したのではないだろうか。
その先っも全て予想できるのがむかつく。
あいつ等、いつか殺す。

ともかく、どこからか回ってきた情報のおかげで生徒会は転入生を助けることが出来たようだけど。恋に溺れた彼等、生徒会の連中は彼の危うい姿を見てキレた。
彼等には『退学』が容赦なく突きつけられた。…と思う。声は聞こえない。何故なら僕は今窓からそのシーンを見ているから。

〜♪
予想していた着信に相手を確認することもせずに電話に出た。


『ナナ。…呼ばれたよ、生徒会に』
「ユウ、僕は、」
『だめだよ、ナナ。絶対に』
「僕は恨むよ、生徒会を。使い物にならなくなってしまった彼等なんか、消してやる」
『ナナ、そんなことをしたら俺がお前を恨むよ。というか怒るよ?』
「……わかった。だけど」
『ダーメだって』


副会長親衛隊隊長のユウは生徒会室で生徒会+αに尋問され、怒鳴られるだろう。
そして最後は『退学』

怒ってもどうにもならないのに。
悪いのは全部自分たちなのに。
転入生を怖い目に合わせたのは生徒会のくせに。
ユウのことを何も知らない癖に。



生徒会の連中は、昔から孤独だった。
近づいてくる輩は金か顔目当て。
信じていた友人にも裏切られ、人を信じられなくなった可哀想で、哀れな、馬鹿なヒトタチ。
ほんと、現実を見ないからだ。

彼等は僕たち親衛隊がいるから迂闊に友達も作れないんだと喚いているがあれは単に、自分たちの問題だ。
彼等は人を見下している。
生徒だけでなく、教師や大人をさえも。

大体、一度裏切られたくらいで何を諦めているんだか。
人間は裏切らずにはいられないのに。
だから現実を見ろと言ったんだ。


『俺はもう行くよ、』


バイバイ。
そんな言葉は聞きたくなくて聞く前に切った。
勝手なことをするのはユウだって同じだ。
なら、僕はもう、ユウの言うことなんか聞いてやらない。

僕は誰もいなくなった窓の外を冷めた目で一瞥した後、踵を返した。
手に握っていた携帯電話の画面にはヒビが入っていたのは無意識に力が入ってしまっていた所為。













「テメェ、よくもやってくれたなァ?ここに呼ばれた意味わかってるか?」
「もちろんです」
「お前が命令したことを認めるんだな?」
「いえ、それは違います」
「あぁ?あいつ等から裏は取れてんだよ!!」
「は?ああ……」


生徒会長が指を指した方向には実行犯たち。
目を潤ませて「隊長に命令されたんですぅ」と言っていた。
ユウは呆れに顔を歪ませた。


「まあ。俺は退学だろうが何だろうが構わないんだけど……」


ユウはソファから立ち上がると親衛隊員へと向かっていき、胸倉を掴み上げた。
顔を近づけると静かな声で、いつもの何十倍低い声で話しかける。


「俺、勝手な行動はするなっつったよな?どうしてくれんの、お前らのせいでナナに迷惑がかかったんだぜ?」
「ひいッ!!」


乱暴に胸倉を離すとにこやかに生徒会のほうを振り向いた。


「お前…猫被ってたのかよ」
「はあ?今頃?言っておくけど、ベタな展開はいらないから」
「……お前は、もしかして「ユウ!!」」


会長の言葉を遮って生徒会室に入ってきたのはナナだった。


「誰だお前」
「ユウ!」


会長が訝しげに聞いてきたがこの際会長なんて相手にしてられない。
僕はユウに抱きついた。


「ナナ!来るなっつっただろ」
「は、知らないよ。ユウだって僕のお願い聞いてくれなかったじゃないか」
「…………」
「ユウが辞めるって言うなら僕も辞める。ユウがいないのならこんなとこ、居る価値もない」
「ナナ……」
「誰だって聞いてんだよ!!」
「うるさい!!この役立たず」
「なっ……!」


会長が顔を真っ赤にした。
このナルシスト自己中め。馬鹿面晒してんじゃねえ。


「……皆川 七風(ミナガワ ナナカゼ)。貴方は会長の親衛隊長ではないのですか」


生徒会副会長。
僕のことを把握していたのか。


「コイツが俺の……?!」
「「えー!!?あの一度も会長が会ったことないっていってた!?」」


戸惑う生徒会室。
煩い双子が叫ぶ。俺様と転入生は僕を凝視し、わんこな会計は睨んでくる。
そして、僕の同室者――真面目な書記様。
唯一のまともな人間。


「僕が親衛隊隊長をしているのは、学園の統括のため。会長に恋愛感情は一切持っていません。しかし、ユウ―――榊 侑眞(サカキ ユウマ)がこの学園から去るというのならもうここに用はありません」
「ナナ…!」


ユウよりも早く、同室者が反応した。

小町 津波(コマチ ツナミ)。一年の時からずっと同室で、僕が親衛隊隊長になった時も嫌わなかったどころか心配してくれた、心優しい彼。


「辞めるなんて、駄目だ…!」
「……?皆川と知り合いですか?津波」
「…………」


言ってもよいのかとこちらを不安げに見てくる津波が可愛かった。
こくんと頷いてやった。


「同室者」
「彼が……」


副会長は目を細め、珍しいものを見るようにこちらを見ていた。
何。その視線は。


「わかりました。柳 侑眞の退学は取り消しましょう」
「は!?お前、何勝手に決めてんだ」
「何か文句でも?」
「……ねえけど」


副会長の裏のありそうな黒い笑みで質問され、会長はおずおずと引き下がった。
会長なのに副会長より立場弱いって一体どういうことなんだ。
しかし、副会長は何を思ってユウの退学を取り消したのだろう。


「ありがとうございます。……良かったね、ナナ」
「うん!」
「ああ、そうだ。お前達……覚悟してろよ?」


ユウが副会長親衛隊員に向かって副会長以上の黒い笑顔を向けた。
親衛隊員たちは恐怖に震えあがっている。
可哀想、なんて思わないよ。
だってユウに迷惑をかけたんだから。
ユウの命令に逆らった挙句、ユウの所為にした奴等に向ける同情は持ち合わせていない。
むしろユウに手を下されることに喜ぶべきだ。
ユウは僕より何百倍も甘いもの。
ユウもそれをわかっていて僕にやらせようとしないんだけど。


「じゃあ帰ろうか、ナナ」
「待って!」
「……何」


誰かに話しかけられたと思ったら、例の転入生だった。
そういえば居たんだっけ。


「あ、あの!おれ……僕と友達になってください!!」
「優輝!?」
「…………」
「どうする?ナナ」
「……やだ」
「嫌だってさー」
「んだと!?」


会長煩い。さっきからいちいち何なの。
言ってること色々矛盾してるし。
幼稚園からやりなおした方がいいんじゃないの?


「な、なんで!?」
「……少しは自分で考えたら?」
「………………」
「大体隠し事してる人と仲良くしたくないし」


まあ転入生よりいっぱい隠し事してんのは僕らの方だけどね。
というか転入生の隠し事僕等知ってるし。


「そうか。そうだよな!……実は俺、変装してるんだ」
「へー」


そういうと転入生はもっさりしていた鬘を外した。
その下から現れたのは整った顔。レベルで言えば生徒会にも劣らない。
そして印象的なのは銀色の髪にグレーの瞳。


「これが本当の俺……気持ち悪いと思う?」
「どおして?」
「だってこんな色、普通じゃないし」
「そんなことないよ……すごく綺麗」


多分無意識に同情してもらおうとしてる。
彼は人間に恵まれてきた。
今までもこう言ってもらってきたのだろう。
だったら、君の望む言葉をあげるよ。


「……!!良かった。ありがとう!」
「じゃあ僕たちは今日から友達だね」
「ああ!……俺は河野 優輝(コウノ ユウキ)だ!優輝って呼んでくれ」
「僕は皆川 七風」「ナナって呼んでいいか?」
「「だめ」」


僕とユウの声がシンクロした。
優輝は肩をビクッとさせた。……何をそんなに怖がっているんだろう。
大体の見当はつくけど。


「僕のことをナナって呼んでいいのは僕が認めた人だけなの」
「俺のことは認めてくれないのかよ!?友達なのに!!」
「君とはまだあったばかりでしょう?」
「そうだけど!!」


彼は泣きそうだった。
予想していた通り会長がつっかってきた。
それにしても予想以上に泣き虫だったんだね、彼は。


「お前、優輝の友達になったんだろ?何泣かせてんだよ!!」
「部外者は黙っててくれます?貴方達がそうやって過保護にするから彼はいつまでたっても一人なんですよ。いいですか。この際言わせてもらいますけど、今回のことだって、もとはと言えば貴方方の責任ですよ。自分たちの影響力も考えずに人目につく場所で彼に構って。特に会長。前に、食堂で彼にキスをしましたよね。あれが一番の元凶です。分かっているんですか?大体、自分の親衛隊の管理くらい自分で出来ないんですか。今年は過去最高に荒れてるらしいですよ、この学園。生徒会がしっかりしないから。……これからは自分たちで管理お願いしますね。というわけで僕とユウは只今を以って生徒会親衛隊長、生徒会副会長親衛隊長を辞めさせていただきます」
「すっきり?」
「うーん。微妙かな。あ、てか勝手に辞めさせちゃったけど良かった?」
「全然オッケー」


僕たちが軽く話してる間、生徒会のメンツは津波と副会長を除き、阿呆面を晒していた。
副会長は何かを悟ったのか優雅に紅茶を飲んでいるし、津波に至っては僕が退学しないとなった時あたりから興味を無くし、せっせと仕事に勤しんでいた。


「じゃあ俺等は帰るねー」
「あ、優輝。明日から話しかけて来ても構わないけど、その変装をしているうちは敵が増えるだけだからね。僕たちの立場を考えて御覧?……それでは」
「あ、待って、ナナ。おれも帰る」


仕事を終わしたらしい津波が一緒に帰ろうと追いかけてきた。
後ろから腰に抱きつかれて正直歩きづらかったが慣れているため何も触れない。
しかし気に食わないらしいユウが津波と喧嘩していた。

あー疲れた。





――嗚呼、とんだ茶番だったな。




10.02.24



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言いたい放題の親衛隊隊長。
暇つぶしに書いただけ。
カテゴリをさ迷うアレだったな。




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あきゅろす。
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