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とある山奥にある全寮制の学園があった。
例も例によってエスカレーター式の男子校である。イコールと言っても良いほど、ホモが多発するという内部の状態は分かっているとは思うが、実際にこの学園もそうであった。
王道に拍車を掛けてこの学園の生徒会はかなりの人気を誇っていた。
当然、親衛隊などというものも存在している。

そんなところに正に王道キャラ、ボサボサ頭に黒縁眼鏡のオタクルックな転入生がやって来た。
そしてやはり王道、生徒会メンバーはもちろん、学園の人気者たちを次々と虜にして行った。
しかしそんな状況で親衛隊が黙っているワケがなく、陰湿ないじめや体育館裏に呼び出すなど制裁を行っていた。




轟 嶺架(トドロキ レイカ)副会長親衛隊。
彼等も例外ではなく怒り狂っていた。


「嶺架様にあんなに近付いてただで済むと思うなよ!!」


彼等と言うのは語弊があったかもしれない。今怒り心頭なのは副会長親衛隊隊長が主であった。
他のメンバーも勿論怒ってはいるのだが、実は皆、副会長親衛隊隊長の親衛隊に所属していた。
最初こそ副会長信者だったものの、隊長の可愛い顔して男前なところに惹かれ、今となっては副会長なぞ結構どうでも良くなっていた。


「みんなも許せないよな!?」
「「「「「はい!!」」」」」


拳を握っている隊長を微笑ましく見ながら元気よく返事をする親衛隊員。


「明日の放課後、あの転入生を呼び出す!!着いてきたい奴だけ着いて来い!」


着いて行かないワケがなかった。隊長を1人で行かせて万が一のことがあったらと気が気じゃない。
転入生はノーマルだという情報はあったが、隊長の可愛さはノーマルさえも魅了してしまうのだと親衛隊員は思っていた。




時は過ぎて副会長親衛隊隊長、佐々木原 紺(ササキハラ コン)は転入生、水上 愁弥(ミナカミ シュウヤ)を裏庭に呼び出していた。
当然のこと、後ろには親衛隊員がぞろぞろと控えている。
今までも何度か他の親衛隊に呼び出されたが、ここまで人数は多くなかったので正直、唖然だった。

そしてこの状況に困惑していた。人数が多くて「うげ、」とは一瞬思ったが、何故か後ろの奴らは見守るような目で目の前の男を見ているのだ。


「副会長親衛隊隊長の佐々木原だ。水上 愁弥だな?」
「そうだけど……」


愁弥は人の気持ちに敏感だ。だからこそ生徒会メンバーには好かれたのだろう。
そんな彼だから分かるのだが、佐々木原と名乗った後ろの男たちから感じるのは嫉妬ではなかった。
こちらを睨んではいるものの、それはただの威嚇だ。


「水上 愁弥!嶺架様にこれ以上近付くのは止めろ。迷惑だ」
「…………」


この学園に来てから何度も聞かされた言葉。そして彼はその都度こう答えてきた。


「あいつ等がそう言ったのかよ!?大体、お前等が口出し出来ることじゃないだろ!」


こう言うと今までの相手は怒りに顔を真っ赤にさせてゴツい男達を呼んでいた。
訳ありで喧嘩の出来る愁弥は返り討ちにしていたのだが、そのパターンにもそろそろ飽きたというか、疲れていた。
しかし、今回は思い掛けない答えが返って来た。


「は?」
「…………は?」


思わず相手と同じ言葉が口から出てしまった愁弥だった。


「何言ってんの、お前」
「え?あ?」


白けた目で見てくる佐々木原に戸惑う愁弥。そんな彼を見て佐々木原は尚も続ける。


「大体、嶺架様が親衛隊を相手にするわけがないんだからお前を迷惑がってるかなんて知るわけないだろう。お前を迷惑がっているのは、俺だ」
――ズッキューン。
愁弥は恋に落ちる音を聞いた気がした。
親衛隊員が最も恐れていたことが現実になってしまったのだ。


「――愁弥っ!」


運良く(?)たまたま通った廊下の窓から現場が見えて急いで走って来た生徒会長が現れた。
その表情は恐ろしく、普通ならビビってしまうはずだが、親衛隊員は逆に睨んでいた。
親衛隊は顔が良ければ誰にでも媚びを売る、と勘違いされがちだが、副会長親衛隊は例外だった。

隊長が、嶺架様を除く生徒会が嫌いなのだ。
嫌いというか、興味なし。
元々、隊長はノーマルなのだ。
ただし、ちょっとした訳ありだった。
どっちにしろ隊長も副会長に恋愛感情を持っている訳ではない。
これは副会長親衛隊隊長親衛隊にとっても副会長にとってもの不幸中の幸いだった。
そうでなければ副会長を殺していたかもしれない。


「何ですか、会長」
「何してんだ、じゃねえ。愁弥に手ぇ出すなんてわかってんだろうなァ?」
「寝言は寝てからお願いします。水上 愁弥には何もしてません。見て分かんないんですか」
「ああ゛!?お前等親衛隊だろ!?」
「はっ!被害妄想もいいとこですね!大体男同士の話し合いに入ってくるなんて、とんだ男の中のクズだな」
「……ッ女みたいな顔しやがってキメェんだよ!」


生徒会長は紺と親衛隊員の地雷を踏んだ。
親衛隊員の睨みは半端じゃなくなっていた。内心「俺等の隊長に何抜かしとんじゃワレェ!!」状態だ。


「…生まれつきなんだから仕方ねえだろうが。あんたは良かったなあ?そんな素敵な面で生まれてこれて。はっ!来世は女顔が普通顔かブッサイクに生まれるよう呪っといてやるよ!死ね!」


会長に対して親指を下に向ける紺。
紺から見えないのを良いことに後ろの親衛隊員も中指を立てていた。


「…は、ははは!お前、気に入ったぜ」


そんな会長の言葉に紺は顔を歪めた。


「あんたはちょっと他と違うだけでこうやってすぐ気に入るよな!知ってんだぜ。は、安っぽい野郎だ」
「お前、着いてこい。生徒会室に連れてってやるよ」
「……嶺架様は?」
「ああ、居ると思うぜ」
「だったら行く」
「隊長!危険です!」


親衛隊的にはよろしくない状況だった。
よりにもよって会長に気に入られてしまうとは。


「あー…じゃあ副隊長、着いてきてよ」
「ああ!」


親友であり紺の親衛隊隊長である副隊長は自分が紺を守れることをウキウキと着いていった。




「失礼します」


礼儀は欠かさない紺。
生徒会室の中には副会長を始め、会計以外が居た。


「何、その子達。…君とか僕の親衛隊隊長だよね」


露骨に嫌な顔をする嶺架だったが、紺は別段気にした風もなく、ニコニコと挨拶していた。


「はい!!佐々木原 紺と申します。嶺架様の親衛隊隊長をさせていただいています」
「そう。…何で連れて来たの?」


会長に胡乱気な視線を向ける嶺架だった。
いかにも超気持ち悪いんだけど、と言いたげである。


「ああ、裏庭に愁弥を呼び出してたんだよ」
「本当なの?愁弥」
「えっ!あ、いや、ちがくて!」
「佐々木原くんだっけ?」
「はい!」


何故か会長はその後の部分は言わなかった。にやけてるところを見ると楽しんでいるのだろう。
そして紺の表情も傷付くどころか、次第に明るくなっていた。


「愁弥には何もしないでくれない?僕にとって愁弥は迷惑なんかじゃないから。…むしろ、君達の方が迷惑なんだけど」
「ちょっ!嶺架!」
「はぁはぁ…!」

突然、胸を押さえて息切れを起こした紺に、愁弥と会長は慌て、生徒会メンバーは未だに汚い物を見るような目で紺を見ていた。


「はっ…!」
「おい、大丈夫かよ佐々木原!」
「変な演技やめてくれない?」
「嶺架!何でそんな酷いこと言うんだよ!」
「ハァハァ…」


しかしそこで全員が紺の様子の異変に気が付いた。


「さ、佐々木原?」
「ハァハァ…!あぁもうたまんない、その冷たい視線!その見下した表情!っつかむしろ踏まれたい!」


発狂しだした紺を副隊長のみ優しい目で見ていた。

そう、副会長親衛隊隊長はドMだったのである。
ついでに変態だった。


「副会長!ぜひ踏んでください!」


全てはこういうことだったのだ。




――ああ!あの卑下した目に踏まれたい!



10.01.10


*****
どM変態受けを書いてみたかっただけ。
続く!かもしれないこともない。




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あきゅろす。
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