或る意味勇者で、ただの人間-4


僕こと、本郷 栞が母親の再婚に伴って義兄の通うこの金持ち学園に転入してから1ヶ月が経った。
薬袋 翼、白川 直、本生 薫。平凡な僕が美形なこの3人と仲良くしていることに対して、親衛隊が動くかと思ったが、予想に反して親衛隊は未だに動きを見せない。
しかし、彼等のファンと思われる人達からの可愛い嫌がらせは地道に続いていた。と言っても、靴に画鋲が仕込まれていたり、陰口を聞こえるように叩かれる程度。特に害はない。画鋲も普通に靴をとった時に気付くし。お坊ちゃんだからこそ、あまり野蛮なことは思いつかないのかな、と勝手に想像した。

初めて食堂に行った時に絡まれた美形は生徒会の会計らしい。彼はよくちょっとでも興味を持った人間にすぐ話し掛けるらしく、ちょっと一回そこら話しかけられた程度では親衛隊は動かないのだそうだ。よくできた親衛隊だと思う。そしてふざけんな会計。僕のあの時の不安を返せ。


「そういえば、そろそろ前期末だね」
「やっべえええええ、勉強してねえええ」


まじで。直ちゃんが思い出したといったように放った言葉にショックをうける。翼が何か喚いているのは無視だ。僕が転入してきたのはちょうど前の高校で中間試験が終わって少し経ったくらいだったので、確かにそろそろ期末の時期ではある。しかし前の高校とここではレベルが違いすぎるし、僕はそんな実力もないのに何故かSクラスに入れられている。これで結果によっては裏口入学が疑われる上、クラス落ちになってしまう可能性がある。
この学校は、成績と家柄でクラスが分けられているため、いくら家柄が良くても成績が悪ければAクラス落ち、もっと酷いとBクラス落ちということもあり得る。翼はどうでもいいにしても、直ちゃんと離れるのはつらい。


「え、なに、白川だけ?俺は?ねえ!俺は!?」
「翼、うるさいよ」


心の声が漏れていたらしい。翼が今日も元気に騒いでいるが、しかし直ちゃんも翼の扱いに慣れたもんで、笑いながら翼をバシバシ叩いている。楽しそうだな……。


「テストかぁ…まともに勉強したことないなあ」
「や、でもこの学園に転入できたくらいだしSクラスなんだから相当頭いいでしょ?」
「やー、自分でもなんでSなのかわかんないんだよねー」


へらへらと頭の悪そうな顔で笑いながら言うと直ちゃんに変な顔をされた。変な顔でも可愛いけど。はぁ、直ちゃん可愛い。舐め回したい。あ、今の冗談ね。ジョークジョーク。


「まあ落ち込むのは結果が出てからね。まだ時間あるし勉強しなよ。翼も」
「うん、わかんないところあったら教えてね」
「もちろん。頑張れ」


直ちゃんの応援に俄然やる気が湧いてきた。こんな学費の高そうなところに通わせてもらってる以上結果は残したいなあ。高夜さんに申し訳ないし。
しかしお兄さんは毎日遅くまで仕事をして帰ってくるけど、勉強をする暇はあるのだろうか、なんて余計なお世話なんだろうが些か働きすぎではないのかと心配になる。


「でも、試験終わったらサマーキャンプだよ」


サマーキャンプ?
そう聞き返すと「そっか、栞は外部編入だから知らないのか」と思い出したかのように納得された。あまりにも馴染んでるから忘れてた。と言われる。そうかなあ。
それはさておき、直ちゃんいわく、サマーキャンプとはつまるところ、学園名物イベントらしい。その名の通り学園の外に出てキャンプしつつ生徒会主催のゲーム等をするんだそうだ。


「ゲームってなにすんの?」
「その年の生徒会による。去年は隠れ鬼だったかな」
「隠れ鬼って……金持ちの高校生がそんなんやって楽しいの……?」
「まぁ、小さい時にそういうのやらなかっただろうし、楽しいんじゃない?」
「あれ、その口振りだと直ちゃんは小さい頃やったことあるんだ?」
「ぼくの家は成り上がりだからそんな大事に育てられたわけじゃないし、普通にやったことあるよ」


なるほど。全員が全員、由緒正しい貴族ではないわけか。
本郷家はどうなんだろう。周りの反応の感じからして相当金持ちそうだけれど。


「もうこんな時間かー。試験勉強しなきゃっぽいし帰るわ」
「ん、気をつけて」


珍しく静かだな。と思っていたらいつの間にやら翼は机で自分の腕をまくらにしてスヤスヤと眠っていた。
こうしてれば可愛いんだけどなあ。
僕は直ちゃんに手を振り教室から退散した。








夕食を待つ間、特にやることもなかったので自室で勉強をすることにした。
試験前だからとちゃんと勉強するとか、今までにあったか。
実際、授業を聞いていて前の学校よりはるかに難しい。前はサボり常習犯だったが、今では授業に出ないとついていけないので優等生だ。僕が優等生とかね。笑える。


「範囲広すぎる……」


そう。
授業進度が尋常じゃなくはやいので範囲がとても広い。
サボったらついていけないというのも、そこらへんにあった。進度だけでなくレベルとしても難しい。


「んんんんんん、ん」


だめだ、わからん。
勉強を始めて早2時間。案外集中していたようだ。我ながらすげえと思う。
意外と進んだ勉強だが、数学の問題で躓いてしまった。どうしよ、明日直ちゃんに聞こうかなあ。
時計をみるとそろそろ19時で、ちょうど良く階下からカホの呼ぶ声がした。


「あれ」


リビングに行くと、珍しくお兄さんと高夜さんが揃っていた。
こんな早く帰ってきているのは久々だ。少し嬉しい、なんて思ったり思わなかったり。どっちだよ。


「帰ってたんですね。おかえりなさい、お兄さん、高夜さん」
「ただいま」
「ただいま、栞くん」


高夜さんはにこにことなんだかすごく嬉しそうだった。それをお兄さんが呆れた目でみていた。


「今日は2人とも早かったんですね、いつもお疲れ様です」
「はー、栞くんは本当に可愛いなあ。ありがとう、今日は仕事が早く終わってね。最近学校の方はどうだい?」
「大分慣れました。今日友達から試験が近いって話を聞いてちょっと勉強してたんですけど、やっぱり難しいですね」


僕の頭が悪いだけかもしれないですけど。そういって苦笑すると高夜さんは「そんなことないでしょ」と笑い飛ばしてくれた。自分で言っといてなんだが、反応に困ることを言ってしまった自覚はあったのでその反応はありがたかった。


「授業はどうだ?ついて行けていないか?」


それまで黙っていたお兄さんが口を開いた。さっきの発言で心配してくれたのだろう。イケメンで優しいとかそりゃあモテるよなあ。


「授業も難しいですけどついていけないってほどでは、ないです」
「そうか。なら勉強すれば大丈夫だ。わからない所があれば聞いてくれ」
「や、でもお兄さん仕事が忙しいでしょうし」
「今日から生徒会も試験期間だ」


まあ仕事はあるんだがな、と困ったように笑った。それでもいつもよりは格段に少なくなるらしい。
だから今日は帰ってくるのがはやかったのか。


「あ、じゃあ夕飯終わったら少しだけ教えてもらってもいいですか?数学でわからない問題があって」
「ああ」


どことなく嬉しそうなお兄さんのその表情は初めて見るもので、何故だかドキリとした。今なら学園のお兄さんファンの気持ちが少しわかる気がした。こんな顔を見たらそりゃ惚れるわ。






優しすぎる家族との、幸せな時間








2013.6.26


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久しぶりで栞くんが安定してなくて、申し訳ないです。


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