「『ファンタジーやメルヘンじゃないんだから、鏡の中の世界なんてない』……だったか?もう一回聞かせてくれよ」
スタンドを従えて、イルーゾォと名乗った男はくつくつと笑う。妙な迫力を感じるその表情に、けれど花京院は『呑まれてはいけない』と自分を叱咤した。
さっきまで自分がいたホテルの部屋が、鏡の向こうに見える。『こちら側』で仰ぎ見た時計は、針が逆回りしていた。
「困ったな。人と待ち合わせをしてるっていうのに」
「心配しなくても時間はとらせないさ、すぐに終わる。待ち合わせの相手にも会えるさ。ただし――」
イルーゾォの目がちらりと、後ろに構えているスタンドに目を向ける。花京院は身構え、相手の動きを注意深く観察した。
「その時お前は屍になっているだろうがなっ!!
イルーゾォのスタンド―マン・イン・ザ・ミラーが花京院に飛びかかってくる。紙一重でそれをかわし、花京院も自分のスタンドを呼んだ。
「悪いが倒されるのはお前だ!ハイエロファント・グリーン!」
もう1人の自分が精神の奥から現れる感覚が花京院の体に走る。
自分の分身たるハイエロファント・グリーンに指示をしようと後ろを向き、花京院は愕然とした。
「ハイエロ、ファント……?どこに!?」
呼べば現れ、背後に控えているはずのハイエロファント・グリーンがいない。
狼狽える花京院を嘲笑うように、イルーゾォは口をつり上げた。
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