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油断大敵 /水原すい様(山+ツナ)
《油断大敵》



「はあー、疲れたー」


冬の晴れたある日の午後、自分しか居ない執務室で背伸びをしながら大きく息を吐き出したのはボンゴレ10代目・沢田綱吉だった。


ようやく仕事に慣れてきたが学生の頃から勉強が苦手な自分は大人になった今でもデスクワークが苦手だった。

それでも一通り目を通した書類はそれぞれの分野に分け、机に置かれている。
細かい仕分けやサインはまた後にして取りあえず一休みしようと立ち上がったその時。


バタン!

「ツナー、今帰ったぜー」


執務室の扉が開くのと同時に入ってきたのは山本だった。

「あー、武。おかえりー、お疲れー」

ノックもなしに扉が開いた事に別段驚く事なく、むしろ入ってきた人物をのんきに笑顔で迎え入れた。


山本は「ただいまなのな」と言いつつ、綱吉の前に見える書類の山を見て言った。

「ツナ今日はデスクワーク?」

それには苦笑いしながら答える。

「いや、昨日と一昨日も。で、この後も」

「ははっ、そっか、お疲れさん」

「本当に疲れたよ」

「俺ら机に座って勉強とか合わなかったからな」

「うん。でも」
と書庫を見ながら続けた。

「放棄できる事じゃないからね」


そう、たとえ紙一枚の事でもそれを片付けないと進まない事があるのも知ったから多少面倒でも終わらせるしかなかった。それにやらなかったらその分数は増す。


「まあ、やるしかないから頑張るよ」

「あんまり根詰めんなよ」

「うん、ありがとう。まあ、今はちょうど一区切りついたから休憩しようかなって思ってたんだけどね。武もコーヒーでも飲んでく?」

「ああ」

「インスタントでもいい??」

「ツナが煎れてくれたものなら何でもいいのな」

という言葉に綱吉は「はいはい」と返事をして食器棚の扉を開ける。先にカップを出して机に置き、続けてインスタントコーヒーの瓶を出した時。


「ひゃあああーーーーー!!!」




大音量が響き渡った。




ボスの叫びを聞いた者が何事かと執務室へ向かうべく走りだした。そこまではまだマシだった。
慌ただしくなった足音に屋敷に居た者達までどうした!敵襲か!?と騒ぎ始めたのだ。


そうして執務室の扉の前に集まったのは屋敷に居た守護者二人と幹部やらその下の者達ざっと見積もって約50人。
皆、銃やらナイフやらを取り出そうと臨戦態勢ばっちりの一触即発状態だ。だが守護者の一人・獄寺が制した。

「俺が入る」

そう言って銃を取り出しノブに手をかける。
固唾を飲む周り。


「ボスから離れろッ!」

勢いよく開け構える。


すると目に入ってきたのは落ちたコーヒーの瓶と中身を片付けている山本の姿だった。

「お、獄寺ただいまなのな」

にかっと笑いながら言う。

「ただいまじゃねーよ。10代目はどこだ!」

背後で扉が閉まる。

「ツナ?あー…」

ちらっと机を見る。
その視線だけでわかった。銃をしまいながら尚も聞く。

「10代目に何したんだ」

「あー、いやー、俺ついさっき戻ってきたんだけど」

そう。山本は仕事で四日ばかり屋敷に居なかった。それは知っている。

「で?」

「で、直にここに来たらツナがコーヒー煎れてくれるって言ってくれて」

「だから何だ」

なかなか話が進まない。

「棚からカップやらコーヒー出してるの見たらつい首に手を」

「すごく冷たかったんだから」

椅子に座っていた綱吉が不満気に口を挟んできた。

「だからごめんって」


どうやら山本としては悪戯の一環で冷えた手を綱吉の首筋にあてたらしい。
しかしその手は室内に居た綱吉にはひどく冷たくてそれにびっくりして叫んだのだろう。


はあ、と獄寺がため息をつき言葉を発しようとした時。

「ボス、大丈夫?」

そろりと扉が開きクロームが尋ねてきた。


そうだ、自分が何故執務室に入ったのかを獄寺はすっかり忘れていた。一方、綱吉はといえば何が大丈夫なのかわからなかった。

だが何もないから取りあえず「大丈夫だよ」と返事をする。

「わかった。じゃあ皆に伝える」

そう言って扉を閉めた。扉の向こうの事はクロームに任せておけばいいだろう。


「ところで俺が大丈夫って何の事?」

いまいち事情が判ってない綱吉が獄寺に聞いた。

「10代目が大きな声を出されたので皆が集まったんですよ」

「えっ?ウソ!?あれそんなに大声だった?」

「至近距離で聞いた俺なんか耳鳴りしたぜ」

という山本の言葉にどうやら知らぬは当人だけだと知った。

「俺もあの声を聞いて何事かと思いましたよ。でも何もなくてよか、…ねぇ」

獄寺の口調と表情が変わり、山本を見る。

「オメーが10代目に変な事しなければそれが一番よかったんだ!」

怒りを露にして山本に言う。一方山本はというと。

「そうか?いやそうだな。ははっ、悪ィ」

悪びれもなく謝る。


「隼人」

名前を呼ばれ、今度は綱吉の方を向く。

「それについては俺がよく言っておいたから」

言葉には出さないがそれ以上は言うなと制される。そう言われれば獄寺は何も言えない。

「それよりもコーヒー煎れてほしいんだけど」

珍しく綱吉から要求された。直ぐに、と返事をし支度しようとすると。

「俺と隼人の分だけでいいからね」

にっこりと言われた。

「ツナ、オレには?」

その言葉を無視した。

「武は確か明日休みだったよね?」

「ん?ああ」

綱吉は出張で帰って来た者には身体を休ませる為に次の日は基本的に休ませるようにしている。しかし。


「これ、オレのサインじゃなくても大丈夫な書類なんだ」

そう言って書類の山の一つを指す。

「それとこっちはまだ細かい分類に分けてないんだ」

別の山を指す。

「あとこれは訂正する箇所がある分」

小さな山を指す。

「ツ、ツナ?」

「以上を部屋に持って帰って出来上がったら持って来てね。それから、誰かに手伝ってもらうのも手伝うって言われてもしちゃ駄目だからね」

死ぬ気の炎はないがその時に見せる凄みが笑顔に、オーラに垣間見えた。


山本は無言で書類を受け取るしかなかった。
そんな山本を獄寺は心の中で「自業自得だ」と思った。




二日後、屋敷に居た者は珍しく疲労感漂う山本の姿とクロームからの説明で「ボスを怒らせてはいけない」と思った。


























《一人反省会》
山ツナぽいですが山+ツナです。
友達同士のふざけあいを表したかったのですがそんなシーンは見事になく撃沈しました。

ツナがあそこまで怒っているのは首につけた手をしばらく離さなかったからです。(とうとう怒ったツナがハイパー化して山本を殴った所に獄寺が入ってくる、という設定もあったりしました)

タイトルは「ボスを怒らせるな」的な意味です。四字熟語を使ったのでお話内にも使ってみました。

誤字脱字、漢字間違い等は皆様の脳内にて変換・補完の程お願いします。

読んでいただきましてありがとうございました。




†††††††††††

水原すい様より頂きました、山+ツナの悪ふざけが可愛いお話ありがとうございました!

綱吉ほど、笑顔の裏が怖い人間いないんではないでしょうか?(笑)
部下の皆様の臨戦態勢バッチリな様子が、こう目の前に浮かぶようです…
獄寺くんが部屋に飛び込む時の顔は、きっと真剣でカッコイイだろうなあ……


そして山本!お疲れ!(笑)手を出した相手が悪かったネ★
これに懲りずにまたフザケあってネ!山+ツナやトリオでキャッキャしてるのは、微笑ましくて大好きなんですっ!

掲載許可ありがとうございました!
宝物です★





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