[携帯モード] [URL送信]
呼ばれる、名前 /水原すい様(1827)


一歩も二歩も離された状況をさて、どうやって縮めようか。


いくら守護者でも自分が群れに入るなんて事はやはり虫酸が走る。だけどリングがある以上まったく協力しないわけにはいかない。
元より彼の傍から離れるなんて事はしたくなかった。だから独自の組織を作り彼等とは一線を引きつつ、彼に害を成す者(ちょっかいを含む)には容赦なく制裁していった。


ただ近頃、その本人が害を成している様に思える。
何故なら付き合いとしては自分と大差ない連中の事を名前で呼ぶ様になったからだ。そればかりか先輩である笹川にも名前で呼ぶようになった。なのに自分は未だに名前で呼ばれる事はない。彼には自分を名前で呼んでいい権利があるのに、だ。


出来ないのは出会いが出会いだったからだろう。しかも人間そう簡単には変える事など出来ない。(自分だってそうだからだ)だから未だに「雲雀さん」なのだろう。


ではそれを打ち破るにはどうすればいい?




しばらく考えていた矢先に風紀財団の施設は大分出来上がっていた。規模のせいだろう、向こうはまだ六割程の出来だと聞く。しかし何かの際に行き来するには充分な出来だろうし設備もそれなりに整っているはずだ。だから取りあえずは繋げようと進言した。
それは何も空間だけではなかった。


考えが至ると話は早い。向こうの技師には草壁を通じて話をつけてある。あとは彼と彼等に聞かせればいいだけだ。



《呼ばれる、名前》



そして約束の日。
時間通りにこちらの扉を開ける。
目の前には久しぶりに見る彼が居た。相変わらず細いとかそんな事を考えていたら彼が口を開きかけた。そうはさせまいと先手を打つ。


「僕の事を名前で呼びなよね」




挨拶もなしにいきなり言われた彼は大きな眼をゆっくりと一回瞬きをし、軽く小首を傾げながらこう言った。
「雲雀さん?」
と。


苗字で呼ばれる事は予想していたものの、疑問形なのはいただけない。何にしろ名前でないならと、トンファーを容赦なく振り下ろした。が、ほんの僅かなところでかわされた。惜しい。
そして理解してない彼にこれ見よがしにため息混じりに言った。


「あのね、僕は『名前』を呼べと言ったんだよ。なのに何で『苗字』を言うわけ?」
苛つきを隠さずそう告げた。するとようやく理解した様で「は、はい!そうですね。わ、わかりました。えと、では…。」
言ったはいいがそこで途切れる。


いつまでも言わないから「早く」とトンファーで軽く小突いた。「痛っ」と言い、続けざまに「お言葉ですが、早くと言われても今までずっと『雲雀さん』だったんですよ。それなのにいきなり名前で呼べだなんて、その…。心の準備が」
何も出来てません。と語尾が弱々しくなる。しかしそんなのは関係ない。忌ま忌ましいが奴等を引き合いに出した。


「駄犬と野球馬鹿は名前で呼び始めたよね。笹川もいつの間にか、だし。他は会った当初からの上、呼び捨ての奴もいるよね。なのに僕だけまだ苗字なのはどうして?」
怯んだ顔をする彼。それでも僕は言い続ける。
「それともボンゴレに正式に入らなければ名前で呼んでくれないの?」
意地悪い顔をしているのは承知だ。それを知って少し間合いを詰めると。
「ボンゴレとかそんな事は関係ないです!さっきも言いましたがずっと『雲雀さん』だったんですよ。なのにここにきて名前で呼ぶなんておこがましいです!」


向こうから近付きながら勢いにまかせて一気に言われる。流石に虚をつかれた。だけど彼の言葉の『おこがましい』の意味が解らない。だから「何をもっておこがましいかはわからないけど」と言い、更に続けて「君には名前で呼べる権利があるんだよ」と告げた。


今度は彼が虚をつかれた。
「権利?ボンゴレですか?」
「それは関係ないって言ったのは君だろう。そうじゃなく…」
やはり何年経っても言葉だけでは分かってくれない彼に僕は腰を引き寄せた。するととたんに慌てて離れ様とするがそうはさせない。しっかりと支えながら捕まえる。
すると自分がどういう状態か一旦は理解するがまたもやパニックになり、どうにかして僕から離れようと暴れる。
暴れるも離れるのも離すのも嫌だ。だけどどうやって落ち着かせればいいか正直わからない。


「綱吉」


自然と名前を呼んだ。


呼ばれた彼はビクッと身体を震わせ動きを止めた。
そういえば僕もずっと『沢田』と呼んでいた。
そこで初めて気付いた。呼んでもらうばかりじゃなく、自分も名前で呼びたいという気持ちがあった事を、それを伝えなければならない事を。
「僕からのお願いだよ」




呼ばれたのはいいがまだ心の整理が出来ずに言ったのが判る。何故なら「きょ、やさん」と小さい声でしかも噛んだから。それでも嬉しかったけどちゃんとはっきりと言ってほしかった。


「恭弥さん」


今度はちゃんと聞こえた。彼も言えた事に自信がついた様で何度か恭弥さん、と言ってくれた。


本人は気付いてないだろう。少し紅くなった頬、陽だまりの様な柔らかい笑顔。そして明るいアルトから言われる自分の名前がどれほど嬉しいかを。
聞かせたいのにこれ以上聞かせたくなくて更に抱き寄せて耳元で呟く。


「上出来」


そして頬にキス一つ落とす。


驚いて全てを停止した彼を一度強く抱きしめてから放すと踵を返し奥へ向かう。すると背中に投げられて来る声。
「ああっ、あのっ、ひば、じゃない。恭弥さん!今のは一体!?」
言い終わらないうちに振り返り言う。
「僕が君を好きだから君には権利があるんだよ」
「…は?」
頭に?が浮かび上がってるのが見える。何を言ってるのかわからないと。
「僕を名前で呼んでいい権利」


それでもやはり意味がわからないのだろう。綱吉が聞き返してきた。
「俺が貴方を好きだから、じゃなくてですか」
「それは必要だけど関係ない」


彼には雲雀恭弥という存在をもっと意識してもらいたい。だから名前で呼んで『特別』になる。とはいえそれだけでは奴等と同じで意味がない。


「これは宣戦布告だよ。君と、君に関わっている全てに」
「はい?」
「気付いてなかったみたいだから言うけど、この会話、お互いの基地に通じているよ」
「…はいーーっっ!?」
素っ頓狂な声が響く。


そう、彼に惹かれている輩全員に言わなければ意味がない。
「あのー、ちなみにいつから、ですか」
と聞いて来た。いつからも何も始めからそれが目的なんだから「扉を開けた時から」と答えた。


どうやら気付けなかった事と一連の会話を聞かれた事が相当ショックだったらしく顔を青くしている。
追い討ちをかける様だけど言わないとわかってもらえないから言う。
「いいよ、嫌っても。でも逃げるのだけは赦さないからね」
彼だけに聞かせ、柔らかい頬を一撫でして、今度こそ奥へと下がった。




これで遅れは取り戻せただろう。
後は彼を連れてどう他から引き離すかだ。

























《一人反省会》
雲雀はモノローグが多くて長くてすみません。
もう少しわかりやすい表現が出来ればな、とは常々…。
雲雀はようやく腰を上げ、ツナは無自覚に雲雀に惹かれている感じです。くっつくまでに何年かける気だ!という突っ込みはスルーでお願いします。むしろ早いかも。

誤字脱字等は皆様の脳内変換で補完してくださいませ。
読んでくださいましてありがとうございました。


†††††††††††

すいさまから戴いた個人的ssを半強奪気味に(笑)掲載許可をいただきました!
ご本人と同じく凄く凜としたお話を書かれる、なおかつ萌える(たぎる)ポイントを心得ていらっしゃる………すい様は桜井を萌え殺す気でしょうか(笑)他守護者への牽制と「上出来」という台詞に雲雀スキーな私は見事撃沈………ダイイングメッセージは、雲雀さ…萌え…です。

本当に我が儘を聞いてくださりありがとうございました!

このお話に影響を受けてお礼として書いたお話は後日贈り物にアップします★



[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!