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硝子玉は映さない(銀時)



刀を振るう。目の前の奴の首から上が消えた。斬り口から液体を噴き出しながら、ゆっくりと生き物だったものは傾いで倒れてゆく。抜け殻を迷いもなく踏みつけて、また一人葬る。この流れが終わることなく続く。(死者への尊厳もクソもない。)世界は灰色に染まって、最初は鮮やかだった血の赤も今はもうくすんできた。白黒の世界。明暗さえも微妙で、色々と輪郭がはっきりしない。頭の中は真っ白だってのに、俺の体は勝手に動いて戦って殺戮する。操り人形ってのはこんな感じなんだろうか。(どうせ分かりはしないが。)
最後の一人を斬った後、糸が切れたように力が抜けて、どかっと腰を下ろした。世界の色が命を吹き返す。真っ赤に染まった刀と服。(そろそろ使えねぇな。)椅子なんてこんな荒野にある訳もなく、仕方なしにさっきまでは誰かの頭を護っていたであろう兜を代用した。当人はもうどこかで仏様だ。座り心地は勿論最悪。座布団が欲しい。周りには敵味方両方の屍が。隣には唯一生き残った戦友が。拳を軽く合わせて、互いに脱力。疲れた。ぼんやりと見上げた空は無駄に青い。(赤くないだけましか。)


「なぁ金時。」


「銀時だっつーの。何お前まで坂本と同じ間違いしてんだよ。いじめか?いじめですかコノヤロー。」


「いじめがこんなに生温い訳無いだろー?どうせいじめるなら徹底的にいじめ抜くタイプだからね私。」


「え、今すっごく不穏な言葉聞いた気がするんだけど。」


「そんな事気にしてるから頭クルクルパーなんだよ。」


「天パ馬鹿にすんな。世界中の天パに謝れ男女。」


「男女?そりゃあ良いほめ言葉だね。私が馬鹿にしてんのはアンタだけだよ。寧ろお前が世界中の天パに謝れ。そしてハゲろ。」


「まだ三十路にもなってねーのにハゲてたまるか。」


会話は覇気が無くなったこと以外に昔から全く変わらないのに、周りは余りにも変化してしまった。寺子屋と戦場じゃあえらい違いだ。本は刀に、笑い声は悲鳴に。まっさらだった手のひらは日々を重ねる度に赤く染まっていく。鉄錆の臭いを纏わせながら。


「……今日も空は灰色か。」


「お天道様も機嫌悪りィんだろ。下が血まみれじゃ。」


「そうか?今日はあんまり汚れてない気がするんだけど。」


「まっさらだったときに比べりゃ汚れてんだろ。」


「確かに。じゃあもうしばらくは戻らないか。」


あーあ、と言って伸びをする。その姿が昔とだぶついて、ちょっと感傷に浸りかけた。








硝子玉は映さない
(あいつの世界から色が消えてゆく)(それを止めることも出来ずに)








何カ所か加筆修正。




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