[携帯モード] [URL送信]


赤と白(忍足)
ソレを見つけたのは雨の日の部活帰りだった。



はらりはらりと目の前に降る赤と白のコントラスト。音を立てずに地面に舞い降りた、ソレ。



「…何やねん、コレ…。」



目をやって心臓が飛び出る思いをした。ソレは明らかに白い包帯とベッタリとついた、血。

人の悪い冗談だ。そう思って上を見る。すると、新たに地に降る赤と白。

こんなものが歩道に落ちていたら騒ぎになると、そう思った、だから近くの植え込みにソレを隠した。





それからそこを通るたびに包帯が落ちてきた窓が気になってしょうがない。





ある日の雨の日、やっぱりソレは落ちてきて。



「ホンマ人の悪いヤツやなぁ。冗談はやめてぇな。」

俺は濡れるのもかまわずに窓のすぐそばにある木に登った。包帯とともに。

そこから見えたのは一人の少女。俺はあまり驚かさないように静かに窓をたたいた。

それに気付いた少女はゆっくりとベッドから立ち上がり窓を開けた。



「アンタ…誰…?」

ほっそりと痩せ細った身体と日本人形のような顔からは想像できない口の悪さに少し驚いた。

「通りすがりの学生や。あんた、こんなモン撒き散らして…何考えとん?」

「…部屋にあふれてきたから…捨てた。」

窓の中から消えそうに小さな声で答える。見れば本当に部屋の中に散乱する赤い包帯。

「何の為にこんな冗談撒き散らすん?」

「…冗談て…何。」

「包帯や。血糊までつけて…。」

呆れた口調で俺が話すと少女はまっすぐ前を向いて答えた。

「…血糊じゃ…ない。」

そう言って包帯の巻かれた右手を見せ、それをほどいた。

「…本物の…血よ。」

そこには自殺痕と思われる跡がくっきりあった。手首に無数の刃物の跡。

白すぎるそこには、あまりにも痛々すぎた。



「…何やねん、それ。この血全部アンタの血なんか?」

「…そうよ。」

「痛ないん?」

「…痛いに決まってるでしょ…?」

なぜそんな当たり前な事を聞くのかという顔。

「あんた名前はなんて言うん?」

「…みるく。アンタは?」

「忍足侑士。みるく、約束してぇな、もうコレ、ばらまかんといて。」

なぜ自分がこんな約束をしたのかは、わからない。ただ見たくないと…そう思っただけ。

「嫌よ。今の私の日課なの、コレ。」

痛いと言ったのに、そんな事をするみるくがよくわからない。

「痛いんやろ?何でそんな事するんかいな。」

「さあ。私にもよくわからないの。ただ、退屈なのはわかる。」

退屈な毎日に刺激が欲しかったのかもね、と一言。

「自分の手首見てみぃ?痛々しくてかなわん。」

「そう?私にしてみればまだまだやり足りないくらいよ。」

そっけなく答えるとみるくは窓を閉めようとした。

「もうすぐママが帰ってくるから。見つかったら大事よ?」



確かに娘の部屋の窓に見知らぬ男がいたら驚くだろう。

へたをすれば俺は警察に突き出されるかもしれない。

「せやな。けどな、血のついた包帯だけは、ばらまいたらアカンで?ほな。」





次の日、あの包帯はまたはらり、はらりと落ちてきた。頭にきた俺はまた窓をノックした。

「…また…来たの…。」

昨日よりもずっと衰弱した声。枕元にはたくさんの薬。

「コレ、ばらまくな言うたやん。」

傷のあるはずの場所を握った。白い包帯に、次第に赤い血が滲む。

「痛…い…から、そんな強く…握らないで…。」

「痛いならやめえ?」

「…うるさい。…何も…知らないアンタが…口出ししないで。」



真っ黒い瞳が俺をとらえる。あまりに冷たい視線に背筋が凍った。



「…痛い…よぉ…。」

みるくは、いきなり下を向きそれだけ言うと倒れた。俺はみるくをベッドまで運んだ。

抱えるとあまりにも軽い身体。枕元にある薬を見れば、それは睡眠薬。

「…死にたいんかいな。」

そうつぶやいて部屋を出た。





次の日、俺は跡部に嘘をついてみるくの所に行った。

「また来たの。いらっしゃい。」

「今日はばらまいてへんのやね。えらいえらい。」

「子供扱いしないで。わたし15なんだから。」

驚いた。こんな小さな身体で15だとは思わなかった。

「小学生かと思てたわ。スマンなぁ。」

「…別に。…ねぇ侑士、毎日…楽しい?」

「何やねんいきなし。まぁ楽しいけどな。みるくは楽しくないん?」

聞き返すと黙って下を向いてしまった。たぶん触れてはいけない話題だったのだろう。

「…それより侑士、明日は来ないでね。」

そう言って俺を窓まで移動させた。

「外に出たいな…。」

「出ればエエやん。」

「きっとママが許してくれない。」

「身体弱いん?大変やな。」

病弱そうなのは痩せ細った身体が物語っていた。

「もうすぐママが帰ってくるわ。じゃあね。」





「またな。」





窓を閉めたみるくの口が何か言いたげに動いたがそれに答える前に

ちょうど下にいた跡部に呼ばれてかき消された。その日は跡部にこってりしぼられた。







次の日信じられない噂を聞いた。



『みるくという子が死んだ』



と。その噂をしている子達に聞くと、母親に殺されたらしい。

そう言っていた。そんな事あるはず無いとみるくの所まで駆け出した。



「…はぁ…はぁ…。」

何台ものパトカーが目に入る。さっきの噂がリアルになっていく。

頼むから嘘であってほしい。



「…ッみるく…!」



窓に続く木に登って中を見るとみるくは居なかった。かわりに警察官が数人。

ふと目線を木の枝に移すと一枚の封筒があった。それを手に取り下へと降りた。





…自分の鼓動がやけに煩かった。





昼休みに飛び出した俺は五限が始まる前に戻っていた。



後で跡部に聞いた話だがみるくは氷帝の生徒だったらしい。父親が飛行機事故で亡くなった

二年の終わりから来なくなったと。事の真相を知りたいような知りたくないような、

そんな気持ちだったが木の枝にあった封筒の中身が気になった。

屋上に登り封を切った。中には手紙が入っていた。



『侑士へこんな手紙を残していくことを許してください。きっともう会えないから。

………………………………………………………………………………………………

短い間だったけど、楽しかった。ありがと、侑士、大好き。』



涙が…出た。



手紙には父親が死んで母親がおかしくなってしまった事、母親に部屋に閉じ込められ手を切られた事や、

食事を少ししか与えられなかった事、いつ殺されるかわからない恐怖から不眠になり薬を飲んでいた

…などが書かれていた。後は、母親が好きだから怒らないでね、と。



「ッ何で気付かなかったんや…みるくは、いっぱいSOS出しとったんに…!!」

包帯を落として誰かに気付いて欲しかったのではないか。

「何で…俺…。」

この前俺と別れるとき俺が言った『またな。』を一体どんな気持ちで聞いていたのか。



「…ごめんなみるく…ごめん…ごめんな…。」



目の前が涙で霞んで見えない。ポタポタと封筒に雫が落ちた。



同時に空からも。



封筒の裏に書いてあった文字が滲んだ。まだ読んでいなかったのに。







『それでもね、侑士。私は幸せだったよ。』



二度と読まれることはなかったけど。



『私なんかを気にしてくれた事、忘れないよ。』



やまない雨が俺の涙を隠した。まるでみるくが俺の涙を誰にも見せないよう包みこむように…。







―…侑士…大好きよ?だから、泣かないで…?―







END


--------------------------------------------------------------------------------
珍しく暗い話ですね〜。書いてて暗くなりましたよ。(笑)
でも泣いてる忍足君を書けて良かったッス。泣き忍足に萌え!!←オイ!

ここまで読んでいただき、ありがとう御座います。
こんなんですが、感想頂けると嬉しいですv
write.2005/06/18

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!