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逆転裁判SS
ぬくぬく
「いい天気だなぁ…」
窓の外に見える空は雲ひとつ無い快晴だ。
こんな綺麗な空の下で殺人事件が起こるなんて信じられないよ。昨日なんとか片がついた依頼を思い出して、ぼくはソファに深くもたれてため息をつく。
今の時間、日陰になってしまうデスクを離れ、暖を求めて陽向のソファへ移っているのだ。
デスクから書類は持ってきたし休憩してるわけじゃない。仕事だ。仕事、なんだけど…。
「眠い……」
この陽気、このソファ、加えてこの静けさ。眠くなるなと言う方が無茶だ。
せめて真宵ちゃんがいればまだ騒がしくていいのだが…備品の買い出しに行っちゃったんだよな………あぁ本当に眠い。最近寝不足気味だったからな…。
ちょっとだけ。ちょっとだけいいかな…。
ごめん、真宵ちゃん……。

ぬくぬく


「ただいまー!」
買い出しを終えて、荷物を抱えながら事務所の少し重いドアを開ける。
外のキンキンに冷えた空気のおかげで、あたしはすっかり冷えきってしまった。
「いやぁ寒かったー。あれ、なるほどくん?」
返事がないなと部屋を見回してみたら、案外近くにお馴染みのツンツン頭が見えた。
ソファの背もたれから後ろ頭だけが見えている。
「おーい、なるほどくーん?」
動かないツンツン頭を不思議に思いながら前にまわってみると、なるほどくんがソファに深く座った状態のままでスヤスヤ眠っていた。
「えぇーずるい」
あたしは極寒の中買い出しに行ってたのに!と一瞬ムカッとしたけど、ソファのまわりやテーブルに散らばる書類を見て慌ててその考えを消した。
(そっか、最近忙しくて寝てなかったんだ…)
部屋にも仕事を持ち帰って、あたしが寝た後も仕事してたんだよね…。
そう気付くと、叩き起こすのも悪い気がしてきた。
「しょうがないなぁ…」
ため息をつくと、買い出しの荷物をデスクに置き、奥から毛布を持ってきてなるほどくんにかけてあげた。
散らばった書類を集め綺麗に揃えてテーブルに置くと、とりあえずやることがなくなってしまった。
掃除…はなるほどくんを起こしちゃいそうだし、だいいち朝やった。テレビももちろんダメだ。
「うぅ。ひまだなぁ…」
やることもないので、向かいの一人掛けのソファに座って、スヤスヤ眠るなるほどくんを見る。
いつもあたしより高いところにある顔は、目を閉じて薄い唇を少しだけ開いている。よく見ると唇のまわりの肌が少し荒れている。
(やっぱり疲れてたのかな…)
なるほどくんは一度集中すると、ご飯もトイレも忘れて仕事に没頭するクセがある。
なるほどくんのところに来るのはなぜかいつもギリギリの事件ばっかりだし、被告人の人生がかかってるのだから、集中してやるのは当たり前のコトなんだけど…。
(ちょっと寂しいって思うのは、ワガママだよね…)
もっとかまってほしい。もっとあたしを頼ってほしい。もっともっとと次を求めてしまう自分が、ちょっと怖い。
膝に頬杖してなるほどくんの寝顔をぼんやり見つめていたら、ポカポカの日差しのおかげでなんだかあたしまで眠くなってきた。
(ダメダメ!あたしまで寝ちゃったらお客さんがビックリしちゃう)
でもお客さん、来るのかな?来るような来ないような…来ないかなぁ。
外での寒さがウソのようにポカポカしてて、まぶたがどんどん落ちてくる。
(あぁ…もうダメかも…)
大きいソファはなるほどくんが使ってるし、あたしはここで寝ようかな。と思った時、イタズラにも似た良い考えを思いついた。


「………んん…」
あったかい…。何かに包まれているのが心地いい。これは毛布かな…。
寝返りをうとうとしたら、脇に重みを感じた。
「…うん?……あれ」
まだ眠いまぶたをうっすら開けると、ソファに座ってるぼくにもたれて真宵ちゃんがスヤスヤ眠っているのに気付いた。
「真宵ちゃん…いつの間に」
同じ毛布に2人でくるまっているので、日がすでにソファから離れていてもぬくぬくと温かい。
真宵ちゃんはもたれるというか、ほとんどぼくに抱きつくような状態で眠っていて、可愛くて思わず顔がにやけてしまう。
(しかしこれはなんというか…動けないな)
小さな手がぼくのセーターをしっかりつかんでいる。手をどかしても真宵ちゃんの体が抱きついてるから、動くと間違いなく起こしてしまうだろう。
(どうしよう…)
手持ち無沙汰なので仕事でもするかと思っても書類はテーブルの上。微妙に手が届かない。
そうこう考えているうちにも、ぬくぬくとした温かさが何とも心地よくて、ぼくは再びまぶたが重くなってきた。連日の徹夜の疲れはこんな昼寝じゃ帳消しにはならないらしい。
(もういいや、しょうがないし…眠ろう)
もしかして、真宵ちゃんはぼくをしっかり休ませるためにこんながっちり抱きついて寝たのかな。
少しずり落ちた毛布を空いてる手でかけなおしながら顔を見てみると、真宵ちゃんがもぞもぞと気持ちよさそうにセーターに頬ずりした。
(…甘えたいだけかも)
いや、その両方かな。心までぬくぬくしてくるような幸せそうな寝顔に苦笑する。
真宵ちゃんの頭に頬ずりしてそのままもたれると、温かさといい香りに深く安心する。
ぼくはそのままいとも簡単に、ふわりと眠りに落ちた。


《終》

この後御剣狩魔ペアが遊びにやってきてこのラブラブ熟睡ぷりに起こせず退散するというオマケを考えましたが、長くなりそうなのでやめました(笑)

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あきゅろす。
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