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逆転裁判SS
なついろ
「なるほどくん早く早く!終わっちゃうよー」
「あのね真宵ちゃん…ぼく調査帰りで疲れてるんだけど…」
「なに言ってんの!タイムセールは今しかないんだよ!?なるほどくんがたまにはいいお肉が食べたいって言うからあたしはこんなにも頑張って…!」
「いやいやいや、今現在頑張ってるのぼくだし。真宵ちゃん後ろに乗ってるだけじゃないか!」
「あたしだって頑張ってるもん、背中から応援してるもん。ほれガンバレガンバレなるほどくん!」
「うわわわ!ゆ、揺らすなぁ!」
「もう、オトコのくせにちっちゃいコト言わないの!ほら早く自転車こぐこぐ」
「だいたい、なんでこんなギリギリに、行くんだよ…っ」
「あははそれはアレだよ。トノサマン見てたらいつの間にかこんな時間で」
「忘れて、たのかよ…ぜぇ…。そしたら、ひとりで、行けば、もっと早く、着くだろ…ぜぇ、ぜぇ」
「だってタイムセールのお肉はおひとりさま2パックまでだし」
「な…何枚…買う気…だ、よ…ぜぇぜぇぜぇ」
「よーし、あともうちょっとだよ!この坂さえ登れば…!」
「ちょ……もう、無理…ぜぇはぁぜぇはぁ」
「ガンバレガンバレなるほどくん!」

なついろ


「あー太ももがイタイ…」
「情けないなぁ、あれしきの坂で」
「2人乗りでの坂道は充分キツいよ…!?」
「まぁまぁ、おかげでお肉いっぱい買えたんだからいいじゃない。ね?」
笑顔でそう言われると、まぁなんかもういいか…と脱力してしまう。ため息をつきつつガシャコンと古ぼけた自転車の鍵をあけてカゴに戦利品である大量の肉と、他にも買った野菜などの袋をわさわさ入れる。
「よぉし!今日は焼き肉だぞー」
「焼き肉かぁ、久しぶりだな」
「ね!お野菜もたくさん買ったし、今日はあたしいっぱい食べるからね!」
「真宵ちゃんはいつでもいっぱい食べるだろう」
「えへ」
お目当てのものが無事買えたからか真宵ちゃんはご機嫌だ。カゴに乗りきらなかった袋(真宵ちゃんのお菓子が主の、軽いやつだ)をハンドルにひっかけようとしたら、あたしが持つよと腕に持ってくれた。
「じゃあ帰ろうか」
よいしょと自転車にまたがる。
「うん」
「帰りは下り坂なんだから、しっかり捕まっててよ」
「はぁい」
真宵ちゃんが後ろにちょこんと腰かけてぼくの背中にちゃんとつかまったのを確認してから、ペダルをこぎだす。
「よいしょっと」
「なるほどくん、よいしょって言いすぎだよー」
「…しまった、言わないようにしてたのに…!」
「もうオジサンだもんね、ヤングなあたしと違って」
「そう思うなら、もうちょっといたわってくれよ…」
「ダメダメ!いたわったらボケちゃうよ!」
「てゆうかぼくはまだオジサンじゃないから!」
いつものくだらないやりとりをしていたら、ビルに隠れていた夕日が、真っ赤から紫に綺麗なグラデーションをつくっていた。
「うわぁ…すごい、綺麗…」
「うん、すごいな」
「ね、ちょっと遠回りだけど、あっちの坂道通ろうよ。きっと夕焼けがよく見えるよ」
「そうだね。よし、じゃあ行こうか」
ゆっくりハンドルをきって道を変更する。
遠回りの坂道は、少し急なのだがまわりにマンションやビルがなく、街がよく見渡せる道なのだ。
「急だから、ちゃんとつかまっててよ?」
「大丈夫、大丈夫!」
一応念押ししてから坂道を下り始める。
予想通り、坂道からは広い空が一望出来て、空は最後の光を放ちながら薄い紫から群青へと変化していた。
「すごい…綺麗だねぇ」
「うん…綺麗だ、すごく」
ブレーキをめいっぱい握りしめて、ゆっくりゆっくり下っていく。
ちらりと振り返った時、夕焼けに照らされた真宵ちゃんのうっとりした顔がとても綺麗で、ぼくはどさくさに紛れて本音をもらした。
真宵ちゃんがぼくの背中にぎゅうっと抱きついて、腕に下げた袋がガササと音をたてる。
これだけゆっくり下ってるのだから、怖いわけではないだろう。
ぼくは何も言わずに前を見つめて、この坂道がどこまでも続けばいいのにと、ブレーキをぎゅっと握りしめた。
背中に感じる暖かな柔らかい存在が、いつまでもそばにいてくれる事を願って。


《終》

季節ハズレにもほどがある…!
夕焼けを見てたらついつい書きたくなってしまったのです。

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