一カイ(あかり様より)
久々の休日、一条は珍しく惰眠を貪り昼近くなってから目を覚ました。昨夜寝た時間が遅かったせいなのかもしれないが、最近疲れがたまっていたのだろうと妙に納得する。休みらしい休みなどあまりなく、仕事に追われる毎日だからだ。少しはねた髪を撫で付けベッドに寝たまま目だけ開く。と、チカチカと光っている携帯電話が目にはいった。仕事だったら嫌だな、と思いつつそれを開く。メールがきていた。
今日空いてるんだろ?行ってもいいか?
カイジからの短い文面に幸せな気持ちになると同時に少し焦った。メールがきていたのは一時間前。こんな時間まで寝ていることがない一条なので、もしや無視されたのかと落ち込んでいるかもしれない。慌てて電話をかけると数コールでカイジが出た。
「もしもし、一条?」
「カイジ…はよ…」
若干声が掠れているのは寝起きだからか。カイジは怪訝そうにおはようって…と呟く。
「もしかして風邪か?」
喉の心配をしてくれたらしい。電話の向こう側では眉をしかめて心配そうにしているのだろう。
「悪い、今起きたんだ…」
カイジは珍しいな、と素直に驚いた。来ていいと言うと嬉しそうに返事が返ってくる。
「じゃあ行くな。」
声を聞くと脳裏に楽しそうな笑顔をしたカイジが浮かぶ。末期だな、と思いながら一条はシャワーを浴びにバスルームへ向かった。
カイジが来たのはそれから30分後で、一条は空の胃にコーヒーを流し込んでいる時だった。久々に見るカイジに自然と頬が緩む。
「まだ何も食ってないだろ?作ってやろうか?」
そんなことを笑顔で聞いてくるものだから一条は嬉しくてそのまま頷いた。いそいそと袖を捲って冷蔵庫を探る様が見えて、オープンキッチンであることをこういうときだけ嬉しく思う。何気なくテレビの電源を入れてみると、いわゆる昼ドラというものがやっていた。ちょうど山場だったようで男女がそれぞれ好きだのなんだの、甘い言葉を言い合っている。一条は苦々しげにチャンネルを変えた。起き抜けに作り物の恋愛を見る趣味などない。
「オムライスでいいか?」
カイジが聞いてきて、それがやけに楽しそうな声だったのでおそらく自分が食べたいんだろうと予想する。
「ああ。」
短く返すとカイジは早速玉ねぎを刻みにかかった。一条はニュースを見ながらふとさっきの男女が頭をよぎる。しばし考えてから、ある違和感に気づいた。好き、愛してる、をカイジに言ったことはあっただろうか。そりゃあキスだってするし、それ以上のことだってする。抱くときには言っているかもしれないし、酔っているときも言っただろう。ただ、何気ない生活の中でそれを伝えたことがないのだ。気づいたとたんに冷や汗が出た。もしかしたらこれは恋人じゃない、のだろうか。さらに言うならセフレというものなのか。確かに付き合ってほしいとは言っていない。うやむやのまま始めたが、それから互いの態度は変わったし、甘ったるい雰囲気になった。だがカイジがそれをどう思っているかがわからない。
「カイジ。」
気がつくと、カイジの名を呼んでいた。ふと顔を上げたカイジの目から涙がこぼれる。それに驚いた表情をすると、カイジは笑って玉ねぎを指差した。それに自分はカイジの泣き顔に弱いのだと再確認する。
「どうした?」
軽く首を傾げたカイジが愛しくて仕方がない。が、どうにも言葉は素直に浮かんでくれないらしい。一言に緊張するなんて、相手の答えが気になって仕方がないなんて、初めてだった。
「す、好きだ……」
カイジが目をぱちくりとさせ、とたんに羞恥が襲ってくる。
「いや、オムライスが好きだって…だから、楽しみだなって…」
我ながらかっこわるい言い訳だと思いながら、赤くなった頬を隠すように目をそらした。カイジは数秒黙ってそうか、とだけ言う。再び包丁の音がなった。
「……俺も、好きだぞ。」
たっぷりと間をあけて呟かれた言葉はどうにか一条の耳に届いた。カイジを見るとその顔は真っ赤に染まっていて、自分の言いたいことがばれていた恥ずかしさと、カイジの言葉の嬉しさが混じる。
「オ、オムライスがっ…!」
言い訳をするようにそう言って、一段と早く鶏肉を刻みだした。指を切るんじゃないかとひやひやする。お互いにオムライスを介して告げる気持ちが滑稽だと思ったが、嬉しかった。一条はふっと笑って、オムライスが出来上がったらそれ以上にお前が好きだ、と伝えてやろうかと思考を巡らせた。
fin.
「私はあなたの虜です」のあかり様に4567HITでキリリクとして書いて頂いたものです。
基本甘いけれど素直になれない一カイという私の好みを完璧な形で書いて下さって、感激の名作です。何というツンデレ!店長はこのあとオムライスのデザートにカイジも美味しく頂いちゃう訳ですね、分かります!
素敵なキリリク小説をどうもありがとうございました!
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