わんぴーす
5
「っつーかさ、なんなんだよ、さっきの。」
マクドナルドへ向かう途中、シャチは名前たちに訝しげに問いかけた。
『さっきの、って、何?』
「なんかさ…色違いの人間、みたいな話、してただろ。」
『あ、あれ?ティスカバリーごっこ?』
「冒険ごっこだ。」
「いや、どっちでもいいけど……」
『何?なんかあった?』
「いや、なんつーか…。」
『?』
口ごもるシャチに、名前とペンギンは目を合わせて首を傾げた。
『何?しばらく見ないうちにシャイになったの?』
「いや、ちげーって。なんつーかさ、しばらく見ないうちにお前らキャラ変わった?って思ってさ。」
『えー何それ?どういう意味?』
頬をかきながら目を逸らすシャチにさらに問いかけると、シャチはローを指差して問いかけた。
「とりあえずロー。お前あんな目えキラキラさせながらあんな冗談言う奴だったっけ?」
「あ?ふざけんな。俺は真面目に言ってんだよ。」
「いやっ、ごっこなんだろ!?」
「マジごっこだ。」
「ま…マジごっこ……」
ローの鋭い眼光に睨まれてシャチはゴクリと喉を鳴らした。
「ほっほらあ!やっぱおかしいって!お前こんな事言う奴じゃなかったじゃん!」
『そうだっけ?元からこんな感じじゃなかった?』
「いやっ、つーかこういうのはどっちかっていうとお前のほう………」
そう言い終わるが早いか、シャチはハッとした顔で左手で口を覆い、名前とローを交互に指差した。
「もしかして………。入れ替わってる!?」
『ねーわ。バカなの?』
「一回やってみたかっただけじゃん。」
そうこうしている間に目的地へ到着。4人それぞれ注文し席へついた。
するとシャチは思い出話でもするかのように語り始めた。
「昔はさー、ローがリーダーで、いろんなことしてたよな。」
「懐かしいな…。お前が引っ越す前だから、5、6年前か。」
『遊んだねー、ローって新入りのくせに態度デカかったからすぐ馴染んだよね。』
「…いや、態度デカかったから馴染んだってちょっとおかしいけど…まあ確かにあれくらいが丁度よかったのかもな。お前に付いてくの体力いるし。」
「コイツバカだからな。」
『いやっ、ローだってバカな事してたじゃん。』
「俺はお前に合わせてやってただけでバカはお前担当だ。」
『えー…』
「ははは、確かに、名前は無鉄砲ってゆーか考えなしってゆーか、俺らもそれに巻き込まれてなんだかんだ
楽しかったな。結局止めるのはいつも俺の役目……」
『ヤベー、シャチ優しい。……ん?どうした?』
「………。」
突然、何かを考え込むように黙り込んだシャチ。
しかしすぐにハッとして、3人を一人ずつ指差し始めた。
「お前は、バカ担当。」
『喧嘩売ってるのか。』
第一声に名前を指差し暴言を吐き始めた。
「そしてローは、悪ノリ担当。」
「……?」
指さされたローは訝しげな表情で首を傾げた。
「そしてお前は、無関心担当。」
「………。」
『シャチ?大丈夫?』
「っそして俺は………、ブレーキ担当………!」
シャチは瞬時に察したのだ。バカなことを始めるのはいつだって名前で、ローはなんだかんだと悪知恵を働かせてそれに付き合うし、ペンギンは無関心な顔して二人に合わせる。それを止めるのはいつだって自分で、結局巻き込まれる形で面倒ごとに首を突っ込んだことも何度もあった。
そのブレーキ役がいなくなった途端、おそらく歯止めが効かなくなったのだろう。ローは名前に引きづられ、ペンギンは相変わらず無関心を通したのだろう。
「ペンギン……!お前ってやつは!」
「仕方がないだろう。ブレーキ役が居ないんじゃそうなる。」
「お前な!役には優先順位ってもんがあるんだよ!ボケがいたらツッコミ役がいるだろ!?お前の役は全部居たから成立してたの!」
「いなくてもなんとかやってたぞ。」
「居ないからボケが二人になっちゃったんだよ!」
『ちょっと待て何の話してんの?』
この中で一番シャチと付き合いが長いせいか、ペンギンはシャチが考えていることを瞬時に理解しているようだった。しかし名前にとってはちんぷんかんぷん。問いかける彼女に対し、シャチは神妙な面持ちで声を抑え静かに語りかけた。
「名前、落ち着いてよく聞け、お前は正真正銘バカなんだ。」
『やっぱ喧嘩売ってるよね?外出る?』
シャチは構わず次はローと目を合わす。
「そしてローは、なまじ頭が良いから一周回ってバカに見えちゃう天才だ。」
「ふっ……」
『おいテメー勝ち誇った顔すんな。』
「そして俺はブレーキ担当で、ペンギンは第三視点担当だ。」
『………?うん。』
無垢な名前の瞳を見てシャチはため息を付いた。
「安心しろ、名前。あのかっこよかった時のローを取り戻してやるからな。」
『……?ローがかっこよかった時ってあったっけ。』
「余計なお世話だ。俺はかっこいい。」
「やめろ…!硬派なイメージが……!」
『ねー、マックナゲット追加する?』
「飽きたんだねこの話題!うん!ごめん!」
いまいち会話を理解していない名前と、無関心のローとペンギン。
変わってしまったものに戸惑いを感じながらも、シャチの新生活が始まった。
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