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01
外の冷気で冷え切ってしまった両手を擦り合わせ、僅かな熱を作り出す。冷たい空気を頬に感じをながら階段を駆け上がれば、3年B組に辿り着く。勢いそのままに扉に手を掛け開こうとする。が、わたしの手はそこでぴたりと止まった。

(仁王、くん)

教室の中に人影を見つけたからだ。何より先に目に入ったのは、きらりと光る銀色。あんな髪色をする生徒など一人しかいない。彼もまたこのクラスの生徒なので彼の姿は何の奇怪じゃないけれど、問題は彼の傍に女の子がいること。そして二人が、唇を重ね合わせていることだ。

(う、わ。場所選ぼうよ。部活終わってすぐに何して、)(中入りたいんですけど!)

様々な念いが一気に浮かんで破裂しそうだ。ああでも、

(夕陽が絶妙に差し込んで、きれい)

しかしそこでふと我に帰る。自分がふたりのキスシーンを食い入るように見つめてしまっていたことに気付き、カッと顔に熱が昇る。わたし、なんて悪趣味。これ以上ここにいちゃいけない。脳が発する警告に素直に従おう。ふたりの唇が離れるのを待ってから中へ入っていく勇気などないし、この空間に耐える精神力など持ち合わせていない。何より、待たせているひとがいる。音を立ててばれるなんてヘマは犯さない、大丈夫。ゆっくりと振り向いて駆け出そう、

(!)(やば、)

気付かれた。ばっちりと目が合ってしまったのだ。相手からすこしだけ唇を離した、仁王くんと。どう、すれば。気まずそうに謝りながら入っていくべき?いっそ逃げ出してしまうべき?ああ馬鹿、それじゃ明日どんな顔をすればいいかわからないじゃない。いや、どちらにしろ同じ?。たぶんわたしは今馬鹿みたいに顔を赤くしているのだろう。なのにどうして仁王くんは、顔色一つ変えないの。興味なささうにわたしから目を逸らすと、相手の子の頭を鷲掴み、ぐいと引き寄せた。そして先刻とは比にならないくらいの激しいキス。女の子は苦しそうに目をつむりながら色っぽい吐息を漏らす。何度も角度を変えて舌を絡める。まるでわたしに、見せつけるように。

何も考えられなかった。まだ麻痺する足に鞭を打ち、全力で駆け出した。


あきゅろす。
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