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1.君は僕の適刺激。
静かな図書室には放課後にしては人が少ない。いつもなら勉強や読書をする生徒がぽつぽつと席を埋めてペンを走らせたり、ページを繰ったりしているのに、今日は酷く閑散としていた。カリカリとシャープペンシルを走らせ、小難しい課題を難なく埋めていくルルーシュの向かいに座る癖毛の男はノートを遡ってみたり、教科書を開いてみたり、頭を掻いてみたりと忙しない。突如静かになった向かいに視線を移してみると、机上に広げたたくさんの紙の上でぐったりと突っ伏していた。

「どうしたスザク、終わったのか?」

少し楽しげな声でそう問えば、地獄の底から響いて来るような声で、スザクが間延びしながら名前を呼ぶ。やれやれと言った風に眉間を押さえるが、スザクと一緒にいられる分こうしてぐだぐだと勉強を教えているのは嫌いではなかった。

「どこがわからないんだ?」

問いながら伏した顔の下から、ずるずるとノートを引っ張り出す。瞬間、全部という答えが返ってきて、ルルーシュは思わず吹き出してしまう。場所が場所なので口許を押さえながら押し殺したような笑い声に、スザクは上体を持ち上げて唇を尖らせた。

「わからないんだからしょうがないじゃないかー。ルルーシュ教えてよーねールールーシュー」

じたばたと足を踏み鳴らし出したスザクに、子供かと嗜めながら隣の座席へと移動した。席に着いたルルーシュに満開の笑顔を見せながら頬杖をついて近寄るスザクに牽制球を投げた。

「良いか。場所を弁えろ。それにそういうことをするために俺は移動したわけではない」

ぼそぼそと耳元で言うルルーシュに、スザクは更ににんまりと頬を緩める。

「そういうことって何だよ。ルルーシュのえっち!」

普通の音量で放たれた声だが、図書室では異様に響き渡る。にやにや笑うスザクと顔を真っ赤にしてその口を押さえ込むルルーシュの二人にちらちらと視線が注がれ、ルルーシュは声を潜めて怒鳴る。

「この馬鹿が!なんてことを言うんだ!いらぬ誤解を招くだろうが!」

こそこそとした声でしかも頬を染めながら言うルルーシュに全く迫力は無く、寧ろ可愛いくらいだとスザクは内心ひとりごちて相好を崩した。

「いい加減そういう子供染みたことはやめろ!勉強教えないぞ!」

怒っているつもりのルルーシュがどうしても愛らしく見えてしまって、スザクは思わずちょっかいをかけたくなる。隙あり、と不敵に呟いたスザクにルルーシュが疑問符を浮かべると、ぺろりと手の平を舐め上げられて、勢いよく手を離した。舐められた右手を抱き締めるようにしながら、ルルーシュは怒りと羞恥に紅潮して小さく体を震わせている。何か文句を言おうとするが上手く思考がまとまらずに、口をぱくぱくさせているのが更に可愛らしくて、スザクはだらしのない笑顔を浮かべ続けた。

「可愛いよ、ルルーシュ」

ぶすっとした表情を浮かべているのに、頬を赤く彩っている姿がなんともスザクの苛虐心をそそる。うるさい、と言いながらルルーシュの視線はノートに向けられてしまって、スザクは苦笑した。しかし、ノートに視線を走らせた途端にルルーシュは驚いたように目を瞠り、かと思えば呆れたように眉をハの字に下げている。そのままの顔でスザクに振り返るので、漸くスザクの表情も固くなり始めた。ははは、と空笑いしながら頬を掻いていると、盛大に溜め息が発っせられてしまう。スザク、とどうしようもなく呆れの籠められた声に呼ばれて、スザクは思いっきり頭を下げた。

「ごめん!本当にわからないんだよ…!助けてルルーシュ…」

そっと上げられた顔は歪められて、訴えかけるような翡翠に見つめられる。その顔に俺が弱いことを知ってる癖に、と内心毒づきながらルルーシュはもう一度溜め息をついた。

「教えるって。というかお前これは本当にやばいぞ。今俺が予想できるスザクの今後の可能性は263通りあるが、その内251通りがマイナスに向いている」

深刻そうに告げるルルーシュに、それよりも深刻そうに顔をしかめるスザク。当然だ、とルルーシュが不遜に言うと、何故かスザクの表情は明るくなって、ルルーシュは首を傾げた。

「そうだよね…留年したら一年遅れるんだもんね…」

ぼそぼそと自分に言い聞かせるように呟き出したスザクに、ルルーシュは曖昧な笑みを浮かべて取り敢えず相槌を打った。

「ルルーシュは僕に留年してほしくない…?」

突然真剣な表情で双眸を見据えながら問うスザクに、ルルーシュは更にわからなくなる。それはな、と短く返事をすると、よしと気合いを入れながらスザクは拳を作った。スザクにどう言った心境の変化があったのかわからないが、ひとまずやる気を出したのでよしとしようと、ルルーシュは改めてノートに向かう。隣で静かになったスザクに漸く教え始めた。



「それでここのXが16でYが5になる…それを与式に代入してやれば答え…」

余りにも静かに聞き入ってるスザクを不審に思い、ふと顔を向けてみるとがっちりと翡翠とぶつかった。

「…何見てるんだ…」

ルルーシュの低い声にスザクの真面目な声でルルーシュ、と返る。肩を落としながら恐る恐るルルーシュはスザクにノートを指し示した。

「聞いていたのか?答えはすぐに出るだろ」

とんとん、とシャープペンシルの頭で問題を指すが、スザクは聞いてなかったと真面目な声で返す。さすがにルルーシュも再度大きな溜め息をついて、机へと倒れた。

「もう知らん。勝手にしろ…」

くぐもったルルーシュの声が、腕と机の隙間から漏れてくる。艶やかな黒髪がさらさらと流れた。ふわりとスザクは表情を崩し、ルルーシュに顔を向けたまま同じように突っ伏す。視界には真っ黒な、スザクには羨ましい直毛と、間から覗く白くて形のよい耳。ルルーシュ、と呼んでみるが余程呆れてしまったのか返事はない。

「ルルーシュ僕に留年してほしくないんだろ?それはつまり、僕と…一緒に進級して、卒業したいっていう意味だよね」

至極幸せそうにルルーシュに言い聞かせるが、ルルーシュは勢いよく立ち上がった。

「馬鹿!誰がそんな…!スザクなんて留年してしまえばいいんだ!」

顔を赤らめながら抗議したが、スザクには全く通用しないようで簡単に口を閉ざされてしまう。そっと手を握られただけで、少し高めの体温に触れられただけで、ルルーシュは黙り込んでしまう。触れられた場所からスザクに溶かされてしまいそうで、何も言えなくなってしまう。

「ルルーシュ…僕は君と一緒に進級して、卒業して…。その後もずっと君と…、ルルーシュと一緒にいたい」

ふにゃふにゃとだらしない顔をしていた癖に、こういうことを言う時は決まって真っ直ぐに見つめてくるのは計算なのか、そうでないのかはルルーシュにはわからない。握られた手を振り払って鼻で笑ってみせるが、心臓は早鐘を打って耳に煩い。

「り、留年しないのは常識だろ!…お、俺もスザクと進級した、い…」

羞恥に耐えながら言うルルーシュがどうしようもなく可愛い。再びにへらと相好を崩し、ルルーシュの細い腰へと手を回し、席に着けた。

「勉強も頑張るよ、君のために」

暖かな息が耳にかかるまで近寄って囁かれ、ルルーシュは耳まで赤く染めた。小さく肩を震わせながら少し濡れた瞳でスザクを窺うように見る。

「勉強は俺のためじゃない。スザクのためだ…ばか…」

今すぐにでも押し倒してしまいたい衝動に駆られるが、切れそうな理性の糸を切れないように慎重に保つ。先程までの可愛らしさとは打って変わって、上目遣いで濡れた瞳で見上げてくるルルーシュはひどく卑猥に見え、段々と体の芯が熱くなってきてスザクは冷や汗を流した。意識を逸らすためにノートに向かってみるが、やはりさっぱりわからない。それどころか“ばか”と呟いたときに紅い唇の隙間から見えた濡れた舌が脳裡に焼き付いて離れない。何度か座面の位置を変えて誤魔化してみようと思うがうまくいかなかった。

「何してるんだ?」

折角ルルーシュが教えてくれているのに、再びもぞもぞと動き出して集中力の欠片もないスザクに怪訝な声がかけられた。何でもないよ、と慌てて取り繕ってみるがやはりがちがちに緊張してしまって、余計にルルーシュの不審な視線が注がれた。

「数学はやめるか?…生物とか暗記科目をやったらどうだ?教科を変えると脳が切り替わるから集中できるぞ」

しかし柔らかく崩されたルルーシュの顔にスザクはほっと安堵した。広げられた見るのも億劫になる数学の教科書や参考書が、細くて長い指に閉じられる。その繊細な指先の動きを見ていると、その手に握られたシャープペンシルですらも羨ましく見え、生唾を飲み込んだ。下半身ではスザク自身がすっかり主張を始めていて、窮屈そうに制服の股間部分を押し上げていた。

「ほら…範囲は125ページから153ページ。伝達と、興奮、だ」

ルルーシュはスザクの前に教科書を広げ、その翡翠を見つめながら区切るように言った。びくん、と自身が反応してしまってスザクは赤面する。他意ないルルーシュの言葉なのに、ルルーシュが言うと妙に卑猥に聞こえた。自身がじんじんと熱を持ち、痛いほどに膨張している現実が相まって、スザクの脳内では余計に卑猥に変換された。何故か前のめりにもぞもぞしながら頬を赤く染めているスザクに、ルルーシュが心配そうに声をかけたが、癖毛を存分に揺らして何でもないとしか言えなかった。ルルーシュもそれ以上追及しないので、どうにかスザクは早く抜け出してトイレに行こうと決意した。ひとまず勉強してる振りをするために教科書へと目を走らせる。神経をどのように刺激が伝わるのか無機質な教科書らしい文体で書いてあるにも関わらず、スザクの股間を刺激するには十分な威力だった。それも隣でルルーシュが此方を見つめているからで。ちらちらとルルーシュの紅い唇を盗み見ながら、全く頭に入ってこない教科書を読み続ける。すると黙って座っていたルルーシュが、突然机の上に置かれたスザクの節の立つ指をきゅっと握り込んだ。驚いて横を向くと、握った指を見つめながらふにふにと力を入れたり抜いたりと圧迫してくる。じんわりと手汗をかきながら、スザクはルルーシュに必死に作った笑顔を見せる。

「どうだスザク…感じる、か…?」

何を、とスザクは聞き返すが乾いた喉が引き攣って上手く声を出せない。するとルルーシュはきゅっ、きゅっ、と力を籠めながらスザクの瞳へと視線を移した。

「何がって…圧力をだよ。圧点から俺の刺激が伝わって細胞が興奮して、握られてるのがわかるだろ?でも圧点は圧力以外は感じられないんだ。興奮は適刺激じゃないとダメなんだよ」

興奮、適刺激と今見ていた教科書に並んでいた文字な気がする。つまるところルルーシュはスザクのために教科書の内容を分かりやすく実践してみせたわけなのだが、スザクの“興奮”は“適刺激”によって限界に達した。握られていたルルーシュの手を逆に握り、スザクは椅子を倒さんばかりに立ち上がった。戸惑ったようにスザクの顔を見上げるが、辛そうに歪められたその表情にルルーシュは驚く。どうしたんだ、と声をかけようとした瞬間、隆起して存在を主張するものが視界に入る。

「お、お前!何してる!」

慌てて視線を逸らしたルルーシュの頬は紅色に染まった。スザクは答えない代わりにごめん、と一つ謝り、その手を力一杯引いた。否応なく立ち上がらされたルルーシュを引きずって、図書室最奥の大きな本棚の陰に引き込んだ。細い腰を擦りつけるように引き付け、首筋に大量のキスを降らせる。じたばたと藻掻きながらルルーシュは抵抗するが、スザクのキスは止まない。股間にぶつかるスザクの硬い逸物がルルーシュの羞恥心を掻き立てる。


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