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クッキーに夢中になっているところに突然声を掛けられて、ぼくは肩を跳ねさせてしまった。
とっさに名前が出なくて考えこんでしまう。
「……シュクル」
「おおっ、喋った!」
ジャンは目を丸くして喜んだ。
喜んですぐに「クッキー美味いか? もうちょっと甘いほうがええか?」とぼくを質問攻めにした。その目がものすごくキラキラしていて、彼は本当にお菓子が好きなんだなぁと思うと、自然と気持ちがゆるんだ。
「ずっと黙ったまんまだから、オッチャンはてっきり喋れんのかと。早く言えよなー!」
「……タイミングがなくて」
「タイミング?」
「ジャン……ずっと自分の話、してたから」
ジャンは爆発したように笑った。
「そりゃすまなんだなァ! オッチャンのいかん癖だ。
で、シュクル。お前はどこから来たんだ? 帰る場所があるなら、帰ったほうがいい」
「……それは……」
「……シュクル?」
不愉快な空白。
再び黙りこくったぼくに、ジャンが気付き始める。
「お前、まさかミスターに記憶を」
「ねぇ……ミスターってだれ?」
「こりゃてぇへんだ!!」
ジャンは弾けるように立ち上がる。
「ここで待っちょれよ!」
そう言うと派手に音を立てながら家から飛び出していった。
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