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涙が一つ、こぼれて目が覚めた。
不思議な天井の模様。
壁に掛かった誰かの写真。
涙を拭おうと無意識に引っ張った袖の、生地の真新しさ。
全てが違和感のかたまりだった。ここは、ぼくの家ではなかった。
けれど今はそんなことに注意が向かなかった。
夢を見ていた気がする。
ひどく悲しい、でも、すごく大事な夢。
忘れたままにしちゃいけない気がした。だから、必死に思い出そうとして、もう一度目を閉じてみた。
けれど浮かぶのは空白ばかりで、何も思い出せなかった。
大事なものが何なのか、分からなかった。
ぼくは正体不明の悲しさに、打ちのめされていた。
記憶を置き去りにしたままの身体は、まるで空っぽで、悲しさだけがたっぷりと中を満たしていた。
満たされた悲しみが波を立てる。
記憶を置き去りに、感じる心だけが暴走し始めて、ついに溢れた。
涙がボロボロ流れてきて止まらない。息が苦しくなって、声を上げて泣いた。心がぼくを殺してゆく。
「おい!」
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