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彼はジャンパルダフラといった。
とてもよく笑って、よく喋る人だった。ぼくが聞き慣れない名前の感触に戸惑って黙りこくっていると、何を思ったのかどんどん自身のことを語り始めた。
ここは彼の家で小さな菓子屋を経営していること。トロワナッツっていう、最近話題になっているらしい豆を使ったクッキーを売ろうと、毎日試作品を作っていること。なかなか満足いくものが作れなくて悩んでいること。でも今日は美味しいと言ってくれた人がいて、嬉しかったこと。
家のローンがあと何年残ってるとか、隣の猫がイタズラして大変だったとか、そんな話もあったけど、ほとんどはお菓子の話ばかりだった。
そして最後には「オッチャンのこたぁ、ジャンって呼んでくれりゃいい」と笑って、焼きたてのクッキーをくれた。匂いを嗅いでいるぼくを見て、相当お腹を空かしているんだと思ったらしい。
たくさん泣いたせいで喉がカラカラだったけど、クッキーを食べることに抵抗はなかった。
香ばしい甘さが、口の中に広がる。ピーナッツっぽい。ほわほわと漂って、しみるようにおいしく、思いのほか沢山食べてしまった。
「お前、名前は?」
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