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「待ってー。それは冗談としても、マジで陽が入るっていうのは怖い病気ですよ。オオババ様に診てもらうなら、今すぐ出発しないと間に合わない。本当にチャンスなんですって!」
「だったら尚更アタシが豹馬で走るべきじゃない?」
「ロッソはどうする? 助けるのではなかったのか? それこそマナエン様の命で」
ハルトに指摘されてベニアはムッとする。
「ボウヤとロッソ両方助けることができるって言ってんの。豹馬がどれだけの速さで走るか知ってるでしょ?」
「ああ。だがロッソの命のタイムリミットは分からん。だからこそマナエン様はわざわざお前を走らせるのだろう?
今緊急を要するのは薬を飲んで落ち着いたシュクルではなく薬師を待つロッソに違いない」
「そうだけど……!」
「私もアシャの意見に賛成だ。マナエン様ならシュクルの選択に必ず理解を示して下さるはず、違うか?」
ベニアは口をつぐんでハルトを睨んだ。
「そしてマナエン様は我々に命令などされていない。封蝋を見れば分かる」
「……何が言いたいわけ?」
「これはお前が書いたものだと言っているんだ。マナエン様からはせいぜいお願いの伝言があったくらいだろう。
何故そう事をややこしくさせようとする?」
ハルトの眼光が鋭く光る。ベニアは言葉に詰まる。
「っ、アタシはただ……マナエンの手を煩わせたくなかったのよ」
ハルトは呆れて米神を押さえた。
「お前もとんだ馬鹿者だな。我々がマナエン様の元に赴くのを渋るとでも思ったのか? そんなわけがないだろう?」
「そうだ。マナちゃんを疑うヤツなんていねぇはずだかんな!」
「そうだそうだー」
剣を突き付けられたままのアシャも笑っている。
マナエンの事を褒められると、どうもやりにくい。ベニアはようやく剣を収めた。
「……――ふんっ」
ベニアは踵を返し、カツカツとベッド際の窓辺に歩いて行く。
「あっどこ行くんっすか?」
「決まってるでしょ! ボスターニを迎えに行くの!!」
「そんなに怒んないでくださいよぉ〜せっかくの美人が台無しですよ」
「黙れ!」
「ぶフッ!!」
アシャの顔面に枕が命中した。破裂した枕から羽毛が飛び散る。ジャンは「おいおい弁償してくれよ!」と笑っている。
「ボスターニを本屋敷に送り届けたら、そのままボウヤの警護にまわってあげる。
だから……アンタたちは必ずマナエンのところへ行って頂戴」
「分かった」
ハルトがそう言ったのを聞き届けると、ベニアは素早く三階の窓枠を飛び越えた。シュクルが驚いて窓辺に駆け寄ると、彼女は軽々と着地し振り返りもせずに豹馬に乗って走り去ってしまった。
「……な? 本当は優しいコなんだ」
ジャンが白い歯を見せてウインクした。
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